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年越し


「あー。もう1年終わっちゃうのかあ」
「早いもんだよな、ほんと」

12月31日、大晦日。
グリーンくんとレッドくん、そしてピカチュウとイーブイ。いつものメンツでグリーンくん家のコタツを囲む。もちろんコタツの上にはオレンの実が用意してあって、レッドくんの手によって次から次へと皮だけになっていってる。

「…レッド、おまえ食い過ぎじゃねえ?」
「……?」
「いや、そんな不思議そうな顔すんなよ。お前の横にあるオレンの実の皮がどれだけ食ったかを物語ってんだよ」
「……こ、これはピカチュウが欲しがったから…」
「ピカッ!?」

どうやらレッドくんがピカチュウのせいにしたらしい。いきなり罪をなすりつけられたピカチュウが、レッドくんの方を驚いたようにみる。仲いいなあ。

「いやいや、お前が食ってたのみんな見てるから。ピカチュウのせいにすんじゃねーよ」
「……まあそう言うなって。ほら、グリーンも食べろよ」
「すごい切り返しだなおいっ」
「あははは。そうだよグリーンくん、食べよう」
「ナナシまで…」
「ピカチュウとイーブイも食べる?はい、どーぞ!」
「ピッカ!」
「ブイー!」

気の置けない仲の幼馴染との団欒とした雰囲気の中で、ぽかぽかと暖かいコタツに身を任せる。しあわせだなあ。

「あ、またナナシがぼーっとしてる」
「あほ面―!」
「えっ、ひどい」
「ナナシ、来年はお餅詰まらせないようにね」
「はぐっ、そんなのもうしないよ!」
「無理だろ、もう毎年恒例じゃん」
「やめてよ!来年はもうしないもん!」
「どーだか」

あはは、と笑いに包まれる。こういうあったかい雰囲気がわたしは大好きだ。できればこれからも、レッドくんとグリーンくんとお正月を過ごしたいなあ。

「…あ、もうそろそろみたいだぜ?」
「へ?」

グリーンくんのセリフに釣られて時計を見れば、もうすぐ23時。ポケモンバトルトーナメント2012が始まる時間だ。毎年恒例で見ているこの番組は、各地方のリーグチャンピョンが行ったトーナメント式バトルの決勝戦。視聴率40%を超える年越しの目玉番組である。

「今年は誰がするの?」
「たしかイッシュのアデクと、ホウエンの新しいチャンピョン」
「ダイゴでしょ」
「あ、そうそれ。あれだろ、なんか金持ち会社の御曹司」
「へえー」
「初参戦で決勝だからすごく注目されてるみたい」
「しかも俺らとあんま歳変わんねーだろ?たしか15だっけ」
「え!それなのにチャンピョンなの?すごい…」
「はっ、オレ様だったらもっと低い年齢でチャンピョンになるぜ」
「はいはい。…あ、出てきたコイツだよ」

レッドくんの言葉で再びテレビに視線を向けると、銀髪の男の人が画面に大きく映し出されていた。スっと伸びた鼻筋、透き通るような青い瞳、キラリと光る白い歯に、手馴れた様子で観客に向ける爽やかな笑顔。

「カッコイイ…」

思わず言葉をこぼせば、ガバッとものすごい勢いでレッドくんとグリーンくんがわたしの方を見た。え、なに…。

「はあ?こんなナヨナヨした奴のどこがカッコイイんだよ」
「ナナシ、ボクのがカッコイイよ」
「へ…、え?」
「……オレ、今年はアデク応援しよーっと!」
「ボクも」
「え、でも2人とも毎年どっちか応援するとか無かったのに…」
「るっせ。なんかダイゴとかいうやつ気に入らねえんだよ!ナナシだけダイゴ応援してれば?」

そういうと、アデクがんばれー!とテレビに向かって叫ぶグリーンくん。レッドくんはいつの間にかピカチュウを膝に乗せて、アデクさんを応援してる。なんだがわたしだけ仲間はずれにされているみたいだ。

「え、じゃあわたしもアデクさん応援するっ!がんばれー!」
「え?」
「へ?」
「ん?」
「…お前ダイゴの応援すんじゃねーの?」
「え、だってレッドくんやグリーンくんはアデクさんの応援するんでしょ?ならわたしもアデクさんの応援する」
「でもお前ダイゴがカッコイイって…」
「だけどレッドくんとグリーンくんと一緒のがいいもん」
「…そ、そーかよッ」
「………」

途端に耳を真っ赤にしてぷいっとそっぽをむくグリーンくん。レッドくんにいたっては、ピカチュウの頭に額をくっつけて顔を隠してる。え、どうしようわたし、また何かしてしまったんだろうか…!

「あー、いや、うん。・・・わりぃ」
「え、何が?」
「ナナシ、やっぱりダイゴさんも応援しよう」
「へ?あ、うん・・・?」

なんだか恥ずかしそうにしている2人の様子に疑問も覚えながらも、依然として緊迫した雰囲気のテレビの中バトルに再び目を向けた。状況は、なんとダイゴさんが優勢のように見える。私たちは子供ながらにその雰囲気に息を飲み、じっとバトルの行方を見つめた。



*



「…あー!」

3人の声が室内に響き渡る。ついにアデクさんのバッフロンが、ダイゴさんのメタグロスを倒したのだ。

「すげー!見たかよいまのギガインパクト!」
「ものすごい威力だったねえ!」
「感動した…」

三者三様それぞれに感嘆を漏らす。うん、すごい!ものすごい迫力だった!

「途中までダイゴが優勢だったんだけどなー」
「アデクさんのが一枚上手だった」
「あー、オレもあんなバトル早くしてえ」
「あと2年待たなきゃ」
「あ、ねえ!もうすぐカウントダウンだよ!」
「おー、もうそんな時間経ってたんだ」
「長いバトルだったもんね」
「時間合わせの表彰式は今年はなさそうだな」

テレビ越しに、良いお年をー!と叫ぶアデクさんたち。そして場面は優勝したイッシュ地方に切り替わる。毎年、優勝した地方の1番大きな街でのカウントダウンの様子が取り上げられるのだ。去年はシンオウ地方だった。雪のイルミネーション、キレイだったなあ。

『…さあ、今年も残すところあと30秒を切りました!みなさん一緒にカウントダウンをお願いします!26!25!24!…』

テレビの中で司会を務めていたアナウンサーが、カウントダウンをはじめる。
それを耳にして、年の締めくくりをはじめる3人。

「今年もお世話になりました」
「来年もよろしくお願いします」
「みんなだいすき!」
「ピカ!」
「ブイ!」

『10!9!8!7!…』

にこやかに挨拶を済ませていれば、あと10秒を切った。
顔を見合わせ、大きな声でカウントダウンに合わせる。

「「「5!4!3!2!1!0!……明けましておめでとう!!」」」


今年も一緒にいれますように。


A Happy New Year ! Many Best Wishes to you 2013 !


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