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勘違い


久しぶりの休日。
買い物に行きたいというナナシの提案でタマムシシティまで足を運んだ。
平日と言えど、さすがはカントーで一番デカいデパートなだけあって、人の多さが半端ない。
やべ、すでに人酔いしそう。
ナナシは大丈夫かと少し後ろを歩いている彼女を見れば、久しぶりの遠出で嬉しいのか、全然お疲れでない様子。
元気だな、おい。

「グリーン見て見て!ポケモンジュエルだって!!」
「ん…?」

突然くいっと服の袖を引っ張られる。
そちらに顔を向ければ、何やらキラキラと目を輝かせたナナシ。
ほらあそこ!と指差す方にはついにカントー上陸!海外で話題のポケモンジュエル!!″と書かれた垂れ幕があった。
いつの間にやらそちらに行ってしまったナナシの後を追うと、彼女はすでにいつにない真剣な表情で販売員のお姉さんから話を聞いていた。
チラリと値段に目をやれば、あまり庶民的でないお値段。
まさか買う気じゃねえよな。

「……ですから、お客様の可愛いポケモンちゃんの能力が、一時的ですが上昇するんです!しかもタイプ別にご用意していますから、どんなポケモンちゃんにも…」

要するに、使い切りverのシルクスカーフみたいなもんか。
ってかそれでこの値段かよ高え。
だが俺のそんな考えをよそに、隣では悩んだ様子のナナシ。
え、まじかお前。
つーかバトルしないからいらないだろこれ、何悩んでんだ。

「すいません。こいつバトルしないんですよ。ほら、行くぞ」
「え、あ、ちょっとグリーン待って…」

まだ話を聞きたそうなナナシを無視して売り場を後にする。
すみません、とか店員に謝りながら俺の隣に並ぶナナシ。
その表情は不服そう。

「もう、まだ話の途中だったじゃない」
「買う気が無いのにあの場所占領するよかましだろ」
「むう…。買う気ならあったもん」
「はあ?お前バトルしないじゃねーか」
「いや、そうじゃなくて……」

と、そこでもごもごと語尾を濁らせた。
なんだ、バトルする気になったのか。
何か言いたそうなので次の言葉を待ってみれば、発せられたのは予想外のものだった。

「グリーン、こういうの好きかなあって…。ほら、い、いつもお世話になってるから。そのお礼っていうか…///」
「そ、そう…かよ」
「う、ん……」

何コイツかわいい。
俺のためとか、ばかだろ。
あー、やべえ顔あちい。

「つーか俺様は、んなもん無くてたって余裕で勝てるっつーの」

んでなんて可愛げのない口なんだ俺の口は。
素直にありがとうの一言くらい言えねえのか。
ナナシにも「そうだよね。ごめん」とか言われてしまった。
違うんだよ、そんなこと言わせたいわけじゃねえのに…。

「…だ、だいたいなあ、」
「……?」
「だいたい、お礼とか気にしなくていいんだよ。俺は、お前といれるだけで幸せだ///」
「へ?……あ、ありがと///」
「………///」
「………///」
「…ほら、行こうぜ。ポケモンフーズとか、買わなきゃいけねえもんいっぱいあんだからな」
「う、うん」



*



そっから数時間。
買い物も十分に満喫し、小腹も空いたので帰ることにした。
思っていた以上に買ったものは多くなく、計2袋。
会計の流れでそのままナナシに1つ持たせてしまったが、男としてはこの状況はよろしくない。
重いものは全部俺の方に入ってるものの、俺にだってプライドというものがある。

「ん、」

持ってやろうと空いている方の手を差し出した。
すると、それを見たナナシが途端におどおどとしだす。
えーっと、あの、その…とか意味にならない言葉ばかり発する。
なんだ、どうした。

「ほら、いいから」

遠慮でもしているのかとそう促せば、真っ赤な顔をしてうつむいたあと、そっと俺の手に自分の手を重ねてきた。
繋がれた手から伝わるナナシの体温があたたかい。



違い



一瞬「え、」と驚いたけれど、ナナシのその行動の意味がわかると、たまらなくかわいく感じて、俺はその手をしっかり握り返した。


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