みじかいの | ナノ

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2013.02.28


マサラタウンの片隅で、梅の花が咲いた。
今年は遅咲きだったなあ、なんて思いながら見つめていると、白い小さな花弁を春風が揺らして、わたしにその香りを届けてくれた。
ほんのり甘い香りに自然と笑顔が溢れる。

「ナナシ、お前なにしてんの?」
「あ、レッドくん!グリーンくん!」

いつのまに来ていたのか、梅の花に夢中になりすぎて気づかなかった。不思議そうな顔をしてわたしをみるレッドくんとグリーンくん。そんな彼らの方を向いたまま、梅の木を指差して教えてあげる。

「梅の花が咲いたんだよ」
「梅の花?」
「うん、毎年いまごろには満開なんだけど…。今年は遅咲きだったから、うれしくって」
「そういや咲いてるの今年初めて見たかも」
「でしょ?昨日までは蕾だったのに、今日の午前中あったかかったから、一気に咲いたみたい」
「綺麗だね」

3人で梅の花を見つめる。なんだか、わたしはそれが嬉しくなった。
だいすきな幼馴染とこんなおだやかな時間を過ごせるなんて、わたしは本当にしあわせものだ。

「…この梅の木、ナナシが育ててるの?」
「ううん、わたしは毎年見に来るだけ。剪定してる人も見たことないし、きっと自然に生えたんじゃないかなあ」
「ふぅん。その割にはしっかり育ってるよな」
「ね。それにかなり古い木なんだって。オーキド博士が言ってた」
「じーさんが?」
「うん、博士が子供の時からもうココに立ってたらしいよ。長寿だよね」
「うん、すごい」

ふわりと咲いた梅の花が、また風に揺らされた。
まだマフラーがないと外で話せないような寒さだけれど、そよぐ風は随分と暖かい。
ぽかぽかとわたしたちを照らしてくれるお日様があいまって、わたしは春の訪れを感じた。

「でも、年々咲いてる花が少なくなってる気がするんだよね。それに、今年なんてすごく遅咲きだったし…」

思わず呟いたわたしの声は、小さくなって風に消えていく。
毎年この梅の木に春を教えてもらっているわたしとしては、心が痛い問題だった。
自分なりに本などで調べてみたけれど、植物にそう詳しくないわたしにはよくわからなくて。
お水をあげたりするくらいしか出来なかった。

「…世話してる奴いないならさ、これからは俺達で世話してやろうぜ」

そんなわたしの思いを察してくれたのか、グリーンくんが二ッと笑ってそう言った。
ずっと梅の花に向けていた視線を彼に移す。

「この梅の木?」
「おう!」
「すてき!レッドくんは?」
「いいと思う。でも、グリーンがそんなこと言うなんて、明日は春一番かもね」

レッドくんがそう茶化すと、グリーンくんが怒ったふりをした。
そんな彼らの様子に、思わず笑みが溢れる。
暖かさが、増した気がした。

「確かによく見るとこの梅の木、ところどころ幹が割れていたりして、樹齢が重なってるのがわかる」
「こういうのって、どうやって手入れすりゃいいんだろーな」
「わたし、実は前に本で調べてみたけどわからなかったの」
「ならエリカに聞けばわかるんじゃない?生け花してたし」
「そっか!じゃあ、わたし電話してみるね!」

レッドくんのすすめで、エリカちゃんに電話することにした。
彼女の話だと、自然に育っている梅の木はあまり手をかけなくても十分長生きするそうだ。
実際何十年もココに咲いているんだし、自然の力ってすごいんだなあ…。
そんな風に感心しながら、幹が少し剥がれてしまっていることや、年々遅咲きになってることを相談してみる。
すると彼女に「剪定すればいい」と教えてもらった。
枝を切ってあげることで、逆に新しい枝になって花が咲きやすくなるそうだ。

「梅切らぬ馬鹿って、そういうことか」
「え?」

そのことを2人に伝えると、グリーンくんがそう言った。
わたしとレッドくんは意味がわからず、ポカンと彼を見る。

「知らねえ?コトワザ。桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿ってやつ」
「初めて聞いた。グリーンのくせに、僕の知らないコトワザ知ってるんだ」
「お前たまに素で傷つくこと言うよな」
「でもわたしも知らなかったよ、グリーンくんのくせに物知りだね」
「何この2人、タチわりーんだけど!」

あはは、と笑った後にグリーンくんが教えてくれた。
桜は切るとそこから腐敗して樹木が傷んでしまうことがあるんだって。

「俺がまだ小さい時、花見にいって桜の木を折ったんだ。そしたらじーさんにすげー怒らてさ、そん時に教えてもらった」
「あ、覚えてる。確かナナシに桜やろうとしたんだよね、僕も一緒に怒られた」
「そうそう!レッドが俺の肩に乗って、枝1本丸ごとボキッとな」
「あの桜そんなエピソードがあったんだ。わたし、その桜の花押し花にしてまだ持ってるよ」
「マジ?サンキュ。まぁ結局そのあと、花盗人に罪はないってことで許してもらったんだけどさ。エリカの話聞いて、梅切らぬ馬鹿ってそういう意味だったんだなって」

そう言って自然と梅の花に目を向ける。
そっか、ちゃんと切ってあげないといけなかったのか。
気づいてあげれなくってごめんね。

「でも、梅の剪定ってどんな風にするの」
「そこだよなぁ。エリカ、なんて言ってた?」
「あ、えっとね、電話で伝えるのは難しいから、オーキド博士に教えてもらうといいよって」
「じーさん?」
「うん。盆栽が趣味なんでしょ?」
「…そういや研究所の自分の部屋に色々飾ってたな」
「梅の盆栽もしてるんだって。剪定のコツとかは一緒らしいから、お願いしてみようよ」

梅の花を眺めたその足で、オーキド研究所に向かう。
オーキド博士は、快く剪定の仕方を教えてくれた。
切り返し剪定とか、間切り剪定とか、色々な切り方があって難しかったけれど、だいすきな梅の花のお世話ができることが嬉しくて一生懸命教わった。
オーキド博士もあの梅の木のことを気にしていたみたいで、わたしたちがお世話をするというとすごく喜んでくれてる。

ちょうど今頃が剪定するにはちょうどいい時期だということで、結局そのままオーキド博士が付き添ってくれることになり、剪定してみることになった。
グリーンくんとレッドくんが枝を切り、わたしが下で切り落とした枝を集める。
思っていたよりも作業は大変だったけれど、ふわりと優しい梅の香りに包まれていたから、すごくすごく楽しかった。

蕾が多い枝を中心に残したから、梅の木は今朝よりも少し寂しくなってしまった。
けれど剪定する前より今の方がバランスもよく、立派な印象がある。
凛、とした雰囲気が漂っていて、わたしは好きだ。

「おつかれさま。レッドくん、グリーンくん」
「おつかれー、なかなか良い感じじゃね?」
「うん、すごく綺麗だ」

作業に夢中になっていつの間にか夕焼けになっていた空に、白い花と蕾が映える。
3人で梅の木の下に腰を下ろす。
ほっぺとかに少し泥がついていたけど、誰も気にしなかった。
こうやって3人で過ごすぼーっとした時間がすごく好きだ。

「……あっ!やべえ忘れてた!」
「ど、どうしたのグリーンくん」

突然グリーンくんが焦ったようにわたしとレッドくんを交互に見る。
レッドくんもその視線を受けてハッとしたような顔になった。
どうしよう、何か予定があったんだろうか。

付き合わせちゃって申し訳ない、と1人慌てるわたしをよそに、すっくと立ち上がるグリーンくんとレッドくん。
そんな2人につられてわたしも思わず立ち上がった。

そんなわたしに、顔を見合わせたグリーンくんとレッドくんが、ニヤリと笑って跪く。

「え、え…??」

そして戸惑うわたしに、跪いたまま差し出される手。レッドくんの手には小さな箱も。

「「ハッピーバースデイ、ナナシ」」

春風が梅の花の香りを乗せて、わたしの髪を優しく揺らす。
その風に押されるようにレッドくんからプレゼントを受け取った。
2人からだよ、と言って渡されたそれを開ければ、中には夕日を受けてキラキラと輝く2粒のピアス。

思わず溢れる笑顔と涙に、2人が満足そうに笑った。


Happy Birthday



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1周年記念時に書いたものです。
【2013.2.28★Re:管理人 美月】

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