みじかいの | ナノ

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2012.02.29


春を乗せた風がやさしく頬をかすめ、昨日とは打って変わったあたたかい陽に照らされる。ぽかぽかの陽気はわたしの心をやさしく溶かした。あたたかい、ひだまりの場所。太陽にあたためられた昼下がりのくさのベットは、最高のお昼寝心地を誇るわたしの特等席だ。


「…こんなとこに居た」
「んにゅ…?あ、レッドくん」
「おはよ」
「んー、おはよう」
「グリーンが探してたよ」
「むう。たぶん、だいじょうぶ」
「…すごく怒ってたけど」
「うー。ん、そっかあ。起きなきゃなあ」
「こんなとこで何してるの」
「んー?うん、しあわせしてるの」
「……?」
「レッドくんも、こうやって横になってみればわかるよう」


そう提案すれば素直に従うレッドくん。ピカチュウも一緒になってレッドくんの腕の中で目を瞑った。どうやら彼も一緒にお昼寝するみたいだ。
すっかり眠ってしまっていたけれど、太陽の位置はあまり変わっていないからそこまでの時間は経っていないと思う。グリーンくん怒ってたのか。まずいなあ。そういえば今日は用事があるからと言っていた気がする。それにしても気持ちがいい、今日はすごく風がやわらかい。


「あったかい」
「んふふ、でしょー?毎日ここでお昼寝するのが日課なの」
「これが、ナナシのしあわせ?」
「そうだよ。しあわせだと思わない?」
「うん、しあわせ」


体を包むふかふかの草と風と光に身を沈めて、わたしは再びまどろみに落ちる。レッドくんの髪から香る、あまいシャンプーの香りが鼻をくすぐった。やわらかいにおい。なんだかレッドくんが来て、安心感が増した気がする。なんて居心地がいいんだろう。


ピピピピピピピピピ…


あと少しで眠りに落ちる、というところで聞きなれた機械音が耳に届いた。わたしのは家に置いて来てるから、これはたぶんレッドくんのもの。そう大きくないその音はわたしにはあまり不快なものではなかったのだけどレッドくんにとっては違ったらしい。のそりと起き上った彼は、不機嫌な表情でポケギアを取りだした。


「……もしもし、なに」
「なに、じゃねーよ!なんだその不機嫌そうな声!…じゃなくてナナシ見つかったか?」
「うん」
「だったらさっさと連絡しろ!お前らいまどこいんだよ」
「21番水道」
「はあ?何、お前ら俺が必死で探してる時に仲良く水上デートしてんの?」
「ちがう。くさむらのとこ」
「…そんなとこでなにしてんだよ」
「しあわせしてる」
「おい、ふざけてんなら本気で怒るぞ」
「ふざけてない」
「………」
「………」


スピーカーモードになっているポケギアからグリーンくんの声が聞こえる。ああ、やっぱり怒ってるなあ。うーん、どうしよう。やっぱり今日はお昼寝を早めに切り上げておけば良かったかもしれない。でも今日の気温すごくお昼寝日和…。


「…ナナシもそこいんの?」
「うん」
「ちょっと代わってくれ」
「ナナシ、グリーンが代わってって」


すっかり目が覚めてしまった頭でぐるぐると考えていたら、レッドくんからポケギアを差し出された。地面に溶けきっていた体を起してそれを受け取る。起きあがった拍子に、ふわりと風がわたしの髪を揺らした。ああ、やっぱり気持ちがいい。


「もしもし、グリーンくん?」
「今日は家に居ろって、約束してたよな」
「…ご、ごめんなさい」


でもだって、ポッポは気持ちよさそうに空を飛んで、ハネッコたちはふわふわ風に流されて、縁側ではピチューたちがすやすや眠っていて。こんな日にひなたぼっこをしないだなんてわたしにはできなかったんですごめんなさい。そう心の中で謝罪すれば、まるで聞こえたかのように深いため息をつかれた。


「ったく。……まあいいや、どうせ今に始まったことじゃねーし。いまから行くから、ちょっと待ってろ」
「はあい」


プ―プ―プ―…


通話が途切れたことを報せるその機械をトップ画面に戻してレッドくんに返す。受け取ってすぐ迷わず電源を切った彼は、そのまま何も言わずに再びごろんと横になった。わたしもそれを見習う。長い付き合いだからわかる。グリーンくん、思ったより怒ってなくてよかった。


「やっと見つけた、バカナナシ」
「あ、グリーンくん」
「なにしてんだよこんなとこで」
「しあわせしてる」
「…それはもういい」
「むう、ほんとうなのに」


のんびりとすすむ雲を目で追いながらそんなことを考えていれば、当の本人があらわれた。もう顔は怒ってないよかった。…あ、そこに立たれちゃうと雲が見えないんだけどなあ。


「ぷっ、まぬけ面」
「うー。ひどい」
「ひどいのはお前だろ。俺らがどんだけ探し回ったと思ってんだ」
「へへ、ごめんなさい」
「なんでそこで笑うんだよ」
「だってしあわせなんだもん」
「あのなぁ、」
「ほら、グリーンくんも一緒にしあわせしよう?」


ぽんぽん、と空いている場所を叩いてみると「しょうがねえなあ」と言いながら寝転がってくれた。そうか、そんなに一生懸命探させてしまったのか、それは悪いことをしてしまった。でもごめんね、正直そこまでしてくれたこと、すごくうれしいです。あたたかい光がわたしたちを包み込む。すごくおだやかで、やさしい時間。


「あー…、たしかにこれはしあわせかも」
「でしょ?ここ、風上だから海のにおいもしないんだよ」
「ふうん。お前毎日ここ来てんの?」
「ううん、今日みたいに天気がいい日だけかなあ」
「そっか」


本日何度目か分からない睡魔がわたしの瞼に寄りかかって来た。あたたかい太陽と、やわらかい風。となりには大好きな幼馴染たち。


「しあわせだなあ」


そう呟いて、わたしはゆっくり目を閉じた。

*



「ん、ううん…」
「あ、起きた」
「おいナナシ、いい加減、目覚ませ」
「んむうー…」


あまりうまく頭が働かない。体を起してあたりを見わたせば、そこはオレンジ一色。光のもとを辿ると、そこにあったのは大きな夕陽。あれ、いつの間に。わたしこんなに寝てしまったのか。


「結局もう夕方だぜ。寝過ぎだろ」
「まあ、グリーンもついさっきまで爆睡してたけどね」
「うるせえぞレッド!」
「ナナシ、もう起きた?」
「んー、うん。おはよう」
「1つ歳とっても、相変わらずマイペースだな」
「う、ん…?」


ぼーっとしたまま返事をしていたら、なんとなく言葉に疑問を覚えた。必死で考えてみるも寝起きのせいか思考がまとまらない。えっと、あれ?今日って……

やっとグリーンくんの言葉を理解して彼らを
見れば、赤く燃える夕陽をバックに微笑んでいる。うわあ、絵になるなあ。いやいや、そうじゃなくて、


「「ハッピーバースデイ、ナナシ」」


そっか。きょう、わたしの誕生日だった。

グリーンくんに差し出された小さな箱を開ければ、中にはネックレスが入っていた。視界の端に入った夕陽はもう沈もうとしていて、太陽も水面も輝いていてとても綺麗だった。でもそれよりも、わたしは手元でキラキラとしているそれに目を奪われた。


Happy Birthday



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サイト設立記念に書いたものです。
【2012.2.29★Re:管理人 美月】

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