みじかいの | ナノ

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2015.2.28


「わあ、おひなさまだあ…!」

視界に入った立派なひな壇に思わず感嘆が漏れた。
1、2、3…わわ、7段もある!
すごいなあ、立派だなあ。

ホウエン地方、フエンタウン。
お誕生日のお祝いにと、かの有名な温泉街へ1泊2日の小旅行に来ていたのだけれど、まさかこんなに豪華な雛人形を見れるなんて思っていなかった。
玄関に入ってすぐ、わたしたちを迎え入れるように飾られた立派な雛人形に目が奪われた。

「みなさまようこそおいでくださいました、フエン旅館へようこそ」
「あ、こんにちは。お世話になります。オーキドです」
「はい、お待ちしておりました。どうぞ、近くでおひなさんを見てやってください」

出迎えてくれた女将さんにお礼を行って、中へ上がる。
2m近くある大きなひな壇には、雛人形だけでなくってたくさんの嫁入り道具が飾られていた。
近づいてみると、ふわり、と鼻孔をくすぐる桃の香り。
ぼんぼりの横に添えられている桃の花は、どうやら本物みたい。
まだ桃の花の季節には少し早いはずなのに、さすがは老舗旅館。

「立派な雛人形とお道具ですね、こんなに豪華なおひなさま、はじめてみました」
「ありがとうございます。この旅館で代々大切に祀っているおひなさんです。もう3日後には、また蔵にしまってしまうんですけどね」
「あ、そっか。ひな祭りだもんな」
「ずっと出しとけばいいのに…」
「ばーか、雛人形をひな祭り過ぎてもしまわなかったら、嫁に行き遅れるってジンクスがあるんだぜ」
「へえ、そうなんだ。知らなかった」
「ふふ、お客様よくご存知ですね」
「姉がいて…。毎年3日の夜は大変だったので」

グリーンくんたちの会話もよそに、お人形にみいっていた。
わあ、着物もとってもていねいに刺繍されてる…。
ぼんぼりもこんなに手が込んで…。
おひなさま、しあわせそうだなあ。

「…ほんとうに、とてもきれい」
「ふふ、ありがとうございます、お雛さんも喜んでると思います」
「そういや、ナナシの家で雛人形飾ってるとこ見たことないな」
「あ、うん。だって小さいころから、ひな祭りにはグリーンくんの家でナナミさんと一緒にお祝いしてもらってたから…」
「へえ、ボクの知らないところでそんなことしてたんだ」
「知らないって…。レッド、お前も毎年来てたじゃねーか」
「記憶にないけど…」
「ハマグリのお吸い物とちらし寿司、毎年散々食っといてよく言うな!」
「あぁ、あれひな祭りのお祝いだったんだ」
「食うだけ食って、片付け手伝わねーんだもんなお前」

あぁ、そういえば毎年レッドくんたくさん食べてたなあ。
ナナミさん特製のちらし寿司、今年も楽しみだなあ。

「それでは、お部屋の方に案内いたしますね」
「ありがとうございます」

お部屋は、とてもすてきだった。
ぽかぽかと陽のひかりが楽しめる縁側に、季節を感じられる桃のいけばな。

「桃の花、大好きだもんな」

生花をまじまじと見てよろこぶわたしに、グリーンくんが満足そうにつぶやいた。
部屋からの景色もすこし遠くにフエン山を眺められるとてもきれいなもので、なんて幸せなんだろうとレッドくんとグリーンくんと一緒に談笑しながらその眺めをたのしんだ。

「失礼します。お茶をお持ちしました」

しばらくお話をたのしんでいたら、部屋付きの中居さんがお茶を持ってきてくれた。

「本日は、雛まつりの季節ですので、桃の緑茶をご用意いたしました。ほのかに香る桃の香りと、桃の花びらが飾る華やかな見た目をお楽しみください」
「わあ、すてき!桃尽くしですね」
「1年に1度の、女の子の節句ですから」
「ありがとうございます、とても嬉しいです」
「すごいね、本当に桃の香りがする」
「ありがとうございます。お茶菓子は桃の花びらを入れた水ようかんです。こちらもきっと気に入っていただけると思います」
「花びらが泳いでいるみたいで、綺麗だな」
「美味しいっ…!」
「気に入っていただけたようで何よりでございます」

レッドくんとグリーンくんも気に入ったみたいで、美味しそうに頬張っている。
2人の笑顔を見て、ますますうれしくなった。
なんてしあわせなんだろう。

「そうだ、食べ終わったら、ちょっと行きたいところがあるんだけどいいかな?」

お茶とお菓子をたのしんでいたらふいにレッドくんからの提案。
まだ日も高いし、予定は温泉を満喫するくらいしかなかったから、なんにも問題無い。
うん、それにしてもこのようかんとっても美味しい!



お茶も終わってひといきついたあと、レッドくんに連れられて外をさんぽした。
温泉街の町並みは、昔ながらの人情あふれる風景で心がなごむ。
ゆるやかな坂道にそってならんだおみやげ屋さんも、とっても風情がある。
カントーにくらべて暖かい天気も、心地いい。
なんて気持ちのいい天気なんだろう。

「ここ」

ふと、レッドくんが足を止めた。
そこは、旅館からそう遠くない、すこし小高い丘の上にある公園。

「ナナシを連れて来たかったんだ」
「へ、わたし…?」

おもわず頭にはてなが浮かぶ。

「おいで」

グリーンくんもこの場所は知っているようで、驚いた様子はない。
そのまま2人に連れられて、公園の奥の広場へと進んだ。

「うわあ…っ!」

視界にはいる光景に、ため息が出る。
公園の広場は展望のようになっていて、フエンの町並みを一望できた。
でも、それだけじゃない。
広場のすぐした。
そこには、桃の木がたくさんたちならんでいた。

「綺麗でしょ。公園の下が、桃の果樹園何だ」
「この季節になったら、毎年桃の木で花見ができるんだぜ」
「でも、まだ季節じゃないのに…」
「ホウエン、とくにフエンは温泉の影響で他の町より暖かいからな。桃の花が咲くのも早えんだよ」
「ナナシ、桃の花が好きでしょ。見せたかったんだ」

ふたりの言葉に感動して涙腺が緩む。

「ありがとう、レッドくん、グリーンくん…!」
「どういたしまして」
「はい、これ誕生日プレゼント」

レッドくんからプレゼントが渡される。

「開けてみ?」
「うん…!」

中には、ガラズ調のかんざしが入っていた。
先には桃の花をかたどった飾りが付いている。

「着けてあげるよ」

そのまま身を任せると、どこで覚えたのかくるくると綺麗に髪を結われた。

「とっても綺麗だぜ」
「ありがとう、2人とも…!」

「「ハッピーバースデイ、ナナシ」」

しゃらん、と桃のかんざしが鳴った。


Happy Birthday



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サイト設立3周年記念に書いたものです。
【2015.2.28★Re:管理人 美月】

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