みじかいの | ナノ

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2014.2.28



「わぁ、きれい!」

目の前に広がる花畑に、わたしは感嘆した。
今日はわたしの誕生日。
だから、幼馴染のレッドくんとグリーンくんが、お祝いにと、ジョウト地方のグリーンフィールドへの旅行をプレゼントしてくれたのだ。
カントーではとうてい見れない景色に、心がはずむ。

「すごい、これなんていうお花だろうね!いろんな色がある、種類は違うのかなあ?」

風車からはこばれるかぜがほほをなでる。
さすがは「緑豊かな平和の地」と銘打つだけあって、街の持つ雰囲気もおだかやでここちがいい。
コガネシティから数時間で、こんなすてきな場所に来れるなんてしらなかった。

「おいナナシ、あんまはしゃぎすぎんなよ。こけるぜ」
「1番はしゃいでるのはグリーンだけどね」
「なんだと?」
「ガイドブック片手にすごまれても怖くない」
「旅行を全力で楽しもうとして何が悪い」
「別に悪いなんてひとことも言ってない。グリーン自意識過剰すぎるんじゃない?」
「よーし、喧嘩なら買ってやるぜ!」
「ふたりとも、たのしそうだなあ」

レッドくんとグリーンくんがいつものように口げんかをはじめた。
けんかするほど仲がいい、とは彼らが体現しているようなもので、2人の言い争いは、ものごころついたときからつづいてる。
それでいて、いつも3人で一緒にいるんだから、彼らの言い争いが本気じゃないのはよく知っていた。

「んー!山のふもと、だからかなあ。マサラよりも空気がおいしい気がするや」
「マサラもなかなかだけどね」
「ふふ、もうけんかはいいの?」
「ん。グリーンの相手してたら、体力使うだけだから」
「おい、聞こえてるぞレッド!」

ゆっくりと伸びをして、めいいっぱいに空気を吸い込む。
そりゃあ、生まれ育ったマサラはとくべつだけれど。
さすがは女の子が1度は来たいあこがれの街だ、きもちがいい。
のどかな雰囲気も、どことなくマサラににていて、おちつく。

「このはらっぱで、1日中おひるねしてたいね」
「ナナシ、お前それマサラで毎日やってるだろ。ここでしか出来ないことをしろよ」
「えー、おひるねだって、ここでしか出来ないことだよ?」
「ナナシ、あっちの丘のふもとにある喫茶店、パンケーキが美味しいんだってさ」
「パンケーキ!」
「3時のおやつに、ちょうどいいでしょ?でも、1日限定50食だから、すぐ売り切れちゃうんだって」
「わ、それはすぐに行かなきゃだね!」
「単純」
「食いしん坊」
「へへへ」
「いや、褒めてねえよ」

グリーンくんのするどい突っ込みが飛ぶ。
「わかってるよー」と返したら「ばーか」と言われた。なぜだ、解せぬ。
でもいまはグリーンくんにとりあっている暇はない、パンケーキにいそがねば。

嬉々としてレッドくんのいうお店にむかえば、すでにたくさんの人がならんでいた。
わわ、ひと、多いなあ。食べれるかなあ。
そう不安がるわたしをよそに、レッドくんとグリーンくんはすました顔で人の列を追い越していく。
え。

「予約してたオーキドです」
「あ、はい!おまちしてました!」

なんと!
予想外の展開にキョトンとするわたしに、2人が手招きする。
早く来い、ということらしい。
なんだか先に列になって待っていた人に申し訳ないなあ、と思いながらも店内へ入る。

「か、かわいい…!」

まっしろなそのお店は、まるでドールハウスのようにはなやかに、けれどシンプルに飾られていた。
なんてわたし好みのお店なんだ。
内装にすっかり心をうばわれて、きょろきょろしながら見ていたら、幼馴染の2人はすでにいちばん奥の、バルコニー席へついていた。
唯一のテラス席であるそこは、目の前に広がるおはなばたけを一望できる。
まるで、お姫様にでもなったような気分だ。なんという、ぜいたく。

「気に入ったみたいだな」

息をするのも忘れるほど、目の前の景色に見入っていたら、横からグリーンくんの満足気な声がきこえた。
あとで知ったはなしなんだけれど、このお店は一日1組だけ、この席での予約を受け入れていて、半年以上前でなければ予約できないらしい。
ほんとうに、なんて優しい幼馴染たちだろうか。

「おまたせしました、特別にあつらえさせていただきました、モモンの実とミクルの実のパンケーキです」

ちょっとすると、あまい香りと一緒にパンケーキが運ばれてきた。

「わぁ…!」

プレートには、ぴんく色のパンケーキと、たっぷりの生クリーム。
そして、チョコレートでかかれた「Happy Birthday」のメッセージが添えられていた。
あまりのうれしさに言葉をうしなっていると、オルゴールの音色が店内にひびく。
定番の、Happy Birthday to Youだ。
お店の方へふりむく。
曲が終わると、店内にいた人たちが一斉に拍手で祝福してくれた。

「「お誕生日おめでとう!!」」

2人の声がかさなる。
とたん、なみだがこぼれた。
すごく、すごくうれしかった、こんなにしあわせでいいんだろうか

「お前、何泣いてんだよ」
「感動しちゃった?」
「だ、だって、こんな、うれしくて…!」

うまく言葉にできない自分がふがいない。

「ナナシのなみだ、宝石見たいだ」
「レッド、そんな臭い台詞どこで覚えてきた」
「ふふ」

2人の会話に、おもわず笑みがこぼれる。

「やっと笑ったな。おまえ、いちいち驚き過ぎ」
「今日ずっと、わぁ!しか言ってないよ」
「はう、だって、言葉じゃいいあらわせないんだもん…」

いつのまにかお店の方は、それぞれの会話に戻っていて、花を咲かせている。
ありがとうございます、とぺこりとみなさんの方へ頭をさげて、席についた。
なんというか、いまさらながらに少しはずかしい。

「ほら、はやく食おうぜ。せっかくの焼き立てが冷えちまう」

グリーンくんの言葉で再びプレートに視線を戻す。
かわいく飾られたそれは、とてもじゃないがくずせない。

「でも、もったいなくってたべれないよ」
「じゃあボクがもらう」
「あっ」
「オレもー!」
「ま、まってそれわたしの…!」

言うが早いか、両隣からフォークが伸びてきて、無遠慮にパンケーキをくずす。

「うまっ!すげー、こんなの食ったことねえ!」
「あまい…」
「ふ、ふたりには自分のがあるでしょ!」
「オレ達のはスタンダートなやつだもん」
「ナナシがこういうの好きだろうって、特別につくってもらったんだ。ミクルの実って、めずらしいから、グリーン一生懸命さがしたんだよ」
「ばか、それ言うなっていったろ!」

わずかに顔を赤くしながら、照れたようにグリーンくんが「早く食わねえと全部オレが食う」と脅してきた。
それはこまる。
もったいないという気持ちを残したまま、そっとパンケーキにフォークをいれる。
想像以上にやわらかかったそれは、すっとフォークを受け入れた。
ふわふわの生クリームをすくい、一緒に口に運ぶ。
ほろりと口のなかにあまみとかおりがひろがった。

「おいしい…!」
「だろ?」
「よかった」

思わずほころぶ頬に手をそえながら伝えれば、満足げにわらうグリーンくんとレッドくん。
ああ、なんてしあわせなんだろう。

すっかりきれいにたいらげて、紅茶をたのしみながら景色に見入る。
ゆっくりとまわる風車も、その風にゆれる花も、とおくで白くたたずも山も、ぜんぶが愛おしくなった。
きっとそれは、大切なふたりがとなりにいてくれるからだろう。

「ほら、ナナシ。これ、オレたちからのプレゼント」

そういって、グリーンくんがちいさな箱を差し出してくれた。
中をあけると、そこにはきれいなブレスレット。

「「ハッピーバースデイ、ナナシ」」

今日2回目だけどな、と笑うグリーンくんの声がひびく。
風車のはこんだ花のかおりが、わたしの鼻孔をくすぐった。


Happy Birthday

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2周年記念時に書いたものです。
【2014.2.28★Re:管理人 美月】

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