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それはきっとおばけのせい


レッド先輩が、面白い映画のDVDを入手したらしい。
そんな報告を受けてトキワにあるグリーン先輩の家に呼び出されたわたしは、手土産を持ってちゃっかりと彼の家に転がり込んでいた。時刻はもうすぐ日付を跨ごうとしてるけれど、レッド先輩は元気いっぱい。かくいうわたしも、先輩たちと映画鑑賞なんて久しぶりだから、テンションがすごく高かった。
コンビニで買ったスナック菓子とお酒をつまみ、わいわいと楽しく雑談する。

「んで、なんでオレの家なんだよ」
「だってひとりぐらしだから気兼ねなく見れるし」
「…気兼ねなく見れないような映画なのか?」

呆れたように眉間に皺を寄せてレッド先輩を見るグリーン先輩。大方イッシュのアクション映画でも大音量で見ようという魂胆なのだろう。

「それで、どんな映画なんですか!」

目を輝かせてレッド先輩に尋ねる。そんなわたしに1度視線を送った彼は、ごそごそとカバンの中からDVDのパッケージを取り出す。

「わー!『通信アリ』だ!」

レッド先輩の手にあるのは、有名なホラー映画。けっこう前のだったとは思うけれど、見たことないなあ。たしか、自分が死ぬときの声がかかってくる電話のお話だっけ。

「ホラー、か。また予想外のモン持ってきたな」
「私、前にこれを見ようとしたとき、怖くて最初でやめちゃったんですよね」
「ボクは1回だけあるんだけど、映画が上映されてた頃は、まだ小っちゃかったし良く覚えてない…。見て見たくない?」

グリーン先輩がDVDを見て若干顔を引きつらせながら呟く。
前にパソコンで最初の方だけ見たけど、たしかコレってすごく怖かった記憶あるなあ。

「ちゃんと、2と3も用意してる」
「おお、さすがです!レッド先輩!」
「お前なんでこんな時だけそんなに抜け目ねえの?」
「…いいかんじに夜も更けてきたし、見よう」

グリーン先輩の言葉を無視して、嬉々としてDVDプレイヤーにディスクをセットするレッド先輩。

「おい、何勝手にセットしてんだ!オレは見ないからな!」
「何、グリーン怖いの?」
「は?別に怖くねえけど!?アレだ、ほら、明日もジムの仕事あるしいろいろ忙しいんだよオレは!」
「………」
「な、んだよその目!ナナシ、お前もなんか言え!怖かったんだろ!」
「別にわたしはグリーンさんと違ってホラー怖くないし、あの時より大人になってるし大丈夫です」
「いや、ちがっ…!だから、オレも別に怖いとか思ってねえし!」
「………」
「………」
「お前らいい加減その目をやめろ!」

じっとりと見られて焦るグリーン先輩。かわいいな。
レッド先輩に至ってはもはや笑いをこらえるのに必死といった感じだ、無表情なのに肩が震えてる。

「とりあえず、見よう。グリーン、怖かったら泣いてもいいから」
「レッドてめえ、ぜってー後で締めるからな!」

いまだにわーわーと騒ぐグリーン先輩の横で、セットしたDVDの再生をはじめるレッド先輩。
なんというか、自由だ。

暗転した画面は、そのまま女の子を映し出す。あえて何のBGMも入っていないその演出が、ジリジリと恐怖をかきたてた。

「お、おどかすとか、そういう系ないよな?なあっ?」
「グリーンうるさい黙って」
「ふふっ、でもレッド先輩、グリーン先輩に手厳しすぎですよ」
「そういうナナシも笑ってるじゃん」
「お前らほんとうに性質わりぃ」
「あ、でもナナシは怖くなったら抱き着いてきてもいいから」
「何言ってるんですかもう!」
「レッドお前それセクハラだからな」
「あ、怖いシーン来た」
「え!?」
「…なーんてね、嘘だよ」
「レッドてめぇな!!」
「あははっ、レッド先輩ナイス!」



*



そうやってぐだぐだと話しながら映画を見ること2時間。いよいよ映画もクライマックスを迎えていた。
ついにヒロインへと届いた死の通信。その呪いを解くために廃病院へと乗り込んだヒロインが、謎の影におびえながらも果敢に進んでいくシーンだった。

「ナナシ、おいで」
「ひっ!?あ、レ、レッド先輩…」

さすがに怖くなって小さくなっていたら、ふとレッド先輩から呼ばれた。
それにすらビクッと肩を揺らすわたし。グリーン先輩のことなんて笑えない、怖いもんは怖い。

「ナナシ、怖がりすぎ。でも大丈夫、ボクが手握っててあげるから」
「ありがとございます」
「ん。…グリーン、寝たみたい」
「あ、本当だ」

そういえば途中から「わっ!」とか「ひぃ!」とか言っていたグリーン先輩の声が聞こえないなあ、とは思ってたけど寝てたんだ。むしろこんな映像見ながら寝れるグリーン先輩すごい。

「怖い?」
「ん、ちょっと。でも大丈夫です」

ぎゅっと繋がれた手に安心する。

「ナナシ、手震えてる」
「だ、だって…きゃあ!?」

いきなりバンッと鬼のような形相をして女の人の顔がドアップになりなさけない声があがる。
そんなわたしを見てレッド先輩はくすくすと楽しそうに笑った。

「ちょ、なんでそんなに冷静なんですか先輩…!」
「だって映画の怖さより、ナナシの面白さのが勝ってるし」
「こんな時にバカにしないで下さいよう…う、わ」
「くっくっ…、ほら、おいで」

ぎゅう、と肩にレッドさんの腕が回る。
その突然の感触に一瞬本気でビクリと震えたけど、すぐに服越しに伝わってきたひと肌に安心した。

「ほんとにビビってるじゃん」
「レッド先輩うるさいですよっ」
「面白い奴」
「むう…、ひゃあ!」

怖がるわたしと、それをみて笑うレッド先輩。
不服に思いながらも画面から目を離せないわたしは、なおも息をのみながらテレビを見つめていた。

「ねえ、ナナシ」
「な、なんですか」

そんなわたしを楽しそうに眺めながら、笑みを含んだ声を出すレッドさん。

「ホラー映画見たりとか、怖い話をしたりすると、幽霊が寄ってきやすくなるらしいよ」
「………。へ、へえ…」
「もしかしたら、ここにも…」
「!?え、え…??」
「くくっ…。ねえ、ナナシはおばけに有効なことって知ってる?」
「…?」
「おばけとか、魂とかって、穢れたものが嫌いらしいんだ。だから…」
「うわ!?」

ぐっと反転するわたしの視界。
ここで「きゃあ!」なんて可愛い声わ出せないところが実に悔しい。
目の前にはレッド先輩の整ったお顔。
先ほどまで釘づけになっていたホラー映画の叫び声は、ずいぶん遠くから聞こえる気がする。

「えっちなことすると、いなくなるらしーよ。…どうする?」
「あ…」

ニヤリ、と不適に笑った彼の顔がゆっくりとわたしに近づいてくる。
もう頭の中はおばけとかホラー映画とかそんなもの微塵もなかったけれど、グリーン先輩がとなりで寝てるし、でもレッド先輩きれいだし、それに、それに。




それはきっとおばけのせい




わたしは、悪くない。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
グリーンさん可哀相。
書き終わって彼の存在が別になくてもよかったことに気づいた←

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