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ある晴れた土曜日のはなし
ぽかぽかと暖かい陽気が眠気を誘うコガネシティの自然公園。
それも大好きなナナシの手料理でおなかいっぱいになった午後2時といったら、その睡魔の威力は俺の意思でどうにか出来るレベルのものではない。
ひとつあくびを噛みしめながらチラリと隣を見ると、ナナシも俺と同じように睡魔と闘っていた。
パチパチと瞬かせては、時折頭を揺らしている。
「ナナシ、ちょっと寝てろ。顔すげーことになってんぞ」
「ん、むう…。大丈夫、起きてれる」
「いいから寝てろって。終わったら起こしてやるから」
ぐいっと腕を引っ張り、無理やり俺の肩に頭をもたれ掛けさせた。
よほど眠たかったのか、簡単に身を預けてくるナナシ。
と同時に、ふわりとシャンプーが香った。
同じシャンプーでもどこか違うものに感じてしまう甘いそれは、ひどく俺の気持ちを落ち着かせる。
右肩の重さに愛おしさを感じながら、俺は再びあくびを噛みしめた。
*
それから30分くらい経っただろうか。
わー!きゃー!という子供たちのはしゃぐ声で目が覚めた。
やべえ、寝ちまった。
慌てて横目でナナシの姿を確認すれば、彼女はまだ夢の中のようですやすやと寝息を立てている。
良かった、と安心しつつ噴水の方へ視線を移動させたら、見えたのは待ちに待っていた人の列。
どうやら終わったらしい。
「ナナシ、起きろ。終わったらしいぜ」
「んにゅ…、う?」
ぽけっとした顔で2回瞬きをして俺を見る。
なんだかその幼い姿がかわいくて、頭をなでてやれば、嬉しそうににこりと笑った。
うわっ、なにコイツかわいすぎるだろ。
「ナナシ…」
もうこれはキスしてもいいよな、と判断して低めの声で名前を呼べば、頬に伸ばした俺の手にすりよってきた。
ゆっくりと顔を近付けていく。
自然に閉じられた瞳に合わせ、俺も瞼を閉じた。
鼻先がふれあい、そっとくちびるを重ねようとした瞬間、
「パパーッ!!!」
「っ!?」
背後でした声に驚いて、勢いよくお互いの体を離す。
一瞬にして早まる動悸と流れる嫌な汗。
1度深呼吸して、ゆっくり後ろを振り返る。
視界に入るのは、満面の笑みをたたえた俺とナナシの愛の証。
「…どうしたの?パパ、ママ」
「ん、ああ、いや…」
「なんでもないのよ、ごめんね」
「そう?ねえ、それより見てよこれ!」
俺たちの気まずい空気をものともせず、嬉しそうに左手に持ったものを誇らしげに見せつけてきた。
「見てた!?1位だったんだよ!ほのおのいし貰ったの!」
「すごい!わたし、前に出たときは参加賞しかもらえなかったなあ…」
「良くやったな!さすが俺の子!」
「えへへ!」
わしゃわしゃと頭を撫でれば、嬉しそうに笑う我が子。
実に愛らしい。
「ポケモンの扱いが上手なのは、グリーンそっくりね」
「何を捕まえたんだ?」
「ストライクだよ!ガーディがすごく頑張ってくれたんだ!出ておいで!」
「がう!」
「ストライッ」
出てきたストライクはまだ捕まえたばかりな所為か不服そうな顔をしていたけれど、俺のあげたガーディはこの子によくなついている。
すり寄ってきたガーディを抱きしめ、カッコイイでしょ!とストライクの自慢。
「パパのウィンディみたいに、フレアドライブを覚えたら進化させるの!」
「うわあ、それは頑張らなくっちゃね?」
「お前ならすぐ出来るさ」
「うん!」
ぐっと高い高いをするように持ち上げれば嬉しそうに顔を綻ばせた。
こういう時に目を細めて笑うのはナナシに似ている。
そのままかたぐるまをしてやると、一層に増える笑い声。
「そんじゃ家に帰るか」
「優勝したんだし、今日はごちそうにしなきゃね!」
「本当!?やったあ!」
ある晴れた土曜日のはなし
後日今日の話しをレッドにしたら「ふぅん?ちゃんといいパパしてるんだ」と言われた。
アイツ褒めてんのか貶してんのか解んねえ…。
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