エンドロール | ナノ

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03


「…CUT!!おっけー、いい感じだったよメイちゃん!」
「はい、ありがとうございますっ!」
監督のカットの声で、場の空気が一瞬にしてリラックスしたものへと変わる。
「長引いちゃったけど、今日予定してた分撮り終えられてよかったよ。メイちゃんががんばったからだ」
「いえ、そんな…!ありがとうございます!」
時刻は21時を軽く超えた時間。
撮影の押す映画の世界では、その日決まってた分を予定通り取り終えただけでも十分に早いスピードだ。
「やっぱり、メイちゃんはポケモンとの絡みのあるカットの方が得意みたいね」
おつかれさま、とドリンクを渡されながらスタッフの1人に声を掛けられた。
口調こそ女性らしいが、ガタイのいい立派な男性。
わたしが1番最初に仲良くなった、頼れるオネエサンだ。
「そうみたいです。やっぱり、ポケモントレーナーとして旅してたからかな?」
控室でお留守番してくれている相棒たちを思い出しながらそう答えると、オネエサンはクスクスと笑った。
「きっとポケモンに好かれる何かがあるのよ。ポケモンたちの演技も、メイちゃんといる時じゃ全然違うもの」
「そういってもらえると、嬉しいです」
「ふふ、自信持ってやんなさいよ!あっ、ねえ、せっかく終わったんだからこれから食事でもどう?近くに行きつけのラーメン屋があるの。美味しいわよ」
「わあ、本当ですか?行きたいですっ!」
「おっけ、じゃあ急いで残りの仕事片づけるから、ロビーで待っててくれる?1時間くらいかかっちゃうかもだけど、いいかしら?」
「はーい、大丈夫です!」
オネエサンと約束して、るんるんと機嫌よく控室に戻った。



着替えを済ませて、メイクを直す。
おろしていた髪も、いつものように2つのお団子にした。
帰る準備も出来たし、さあ下でオネエサンが来るのを待とう!と思った瞬間、ライブキャスターが鳴りだした。
着信をくれたのは、テツさんだった。
「もしもし、こんばんは!」
『あ、メイさん!こんばんは!こんな時間にごめんなさい。もしかして、寝てた?』
時間が時間なだけに、申し訳なさそうに聞いてくる。
「ううん、いまお仕事がちょうど一息ついたところだよ!テツさんは?」
『よかった。ボクは今日久々に休暇が貰えたんだ。だから1日、ゆっくり釣りを楽しんでたよ』
「へぇ、釣り!なんだか渋くてかっこいい趣味だね」
『アハハ、ありがとう。休日は釣りをしてるかなぁ。釣竿を垂らしているだけでも、いい気分転換になるよ』
「そうなんだ、楽しそうだね」
『うん、すごく楽しいよ!そういえばライブキャスターを落としたのも釣りに行く時だったから、メイさんに出会えたのは釣りのおかげかもね』
テツさんの楽しそうな声に元気が出る。
いつもタイミングよく電話をくれるテツさん。
彼とはとても話がよくなって、いつもついつい話し込んでしまう。
いま1番気の置けない相手かも知れない。
顔も年齢も何も知らない相手だけど、正直最近はテツさんからの電話が1番の楽しみだ。



「…あ、大変!もうこんな時間!」
ふと、何気なく時計に目を向ければ、針は22時に近いところを指していた。
テツさんとの電話に夢中になってついつい話し込んでしまってたみたいだ。
瞬間、オネエサンと約束を思い出して冷や汗が背中をつたう。
『あ、本当だ!そういえばメイさんは仕事が終わったばかりだよね?疲れてるのに、ごめんね』
思っていた以上に焦りが声に出てしまっていたのか、電話口からテツさんの申し訳なさそうな声が聞こえた。
「ううん、テツくんと電話してすごく元気が出てきたから!ありがとう!
『ならよかった!…あ、ねえメイさん』
「ん?どうしたの?」
『…メイさんとはなしをしていると、あっというまに時間がたっているんだよね。サイコーに楽しいからかな?アハハ!だからこれからもたくさん連絡をくれると嬉しいな』
「うん、わたしもだよ!また電話しよう!」
テツさんの言葉に、無意識に笑みが零れる。
『もちろんだよ!それじゃあ、またね、メイさん。バイバイ!』
「バイバイ!」
通話終了の無機質な音に少し物寂しくなる。
本当は、もっとテツさんと電話していたかったなあ。なんて!
次はいつ電話くれるんだろう、明日も電話出来るといいなあ。
…っと大変、オネエサンと約束してた時間までもう少しだった!急がないと!
慌ててライブキャスターを直し、ロビーへと向かう。



「メイちゃーん、おまたせ!ごめんなさいね、遅くなっちゃって!」
「いいえ、大丈夫ですよ!」
「相変わらず優しいわねえ。…あら?」
「??どうかしました?」
ふと、オネエサンがわたしを見て楽しそうに笑った
「なんだかメイちゃん、帰る前よりご機嫌じゃない。何かいいことでもあったのー?」
その瞬間、テツさんのことが頭をよぎる。
「実は、1番仲のいいお友達とさっきまで電話をしてたんです。たぶん、それかな?」
「ふぅん?」
わたしの返答を聞くと、オネエサンは納得がいかないような表情を浮かべた。
あれ、わたし何か変なこと言ったかな…?
「…まぁ、いいわ。その話はいまからじっくり聞かせてもらうとして…。とりあえず、行きましょ!」
そういって、さっさとビルを出るオネエサン。
わたしは慌てて後を追った。



「…それで、その男の子と電話してたら、時間が経つの忘れちゃったりするのがしょっちゅうなんです。すごく楽しくって…!」
「そう。気が合うのね?素敵じゃない」
オネエサン行きつけのラーメン屋さん。
そこでわたしは、食べるのも忘れてテツさんの話を夢中でしていた。
「はい!それにすごくタイミングも合う人なんです。撮影の休憩中とか、上がった後とか、ちょうど一息ついたところで連絡くれるから、ついつい話し込んじゃうんです!」
「ふふっ、メイちゃん、よっぽどその人にメロメロなのねえ」
「め、めろ…!?」
うんうん、と楽しそうに話を聞いてくれていたかと思うと、オネエサンは突然思いがけないことを口にした。
予想していなかったその言葉に、一瞬、思考が止まる。
えっと、ポケモンの技の話…じゃないよね?
「あ、あのオネエサン!?それってドウイウっ!?」
自分で思っている以上に同様しているのか、声が裏返る。
そんなわたしの様子が余計に面白いのか、オネエサンはますます楽しそうに笑った。
「だって、メイちゃんずーっとその男の子の話ばっかりなんだもの!それもすっごく楽しそうに!あれは恋する乙女の表情だったわよぉ」
「ええっ、そんなことないですって!だいたい顔も知らない人なんですよ?」
「あらぁ、素敵じゃない!見た目とかじゃなくって、その人自身を好きになったってことでしょ?」
「え、あ、…え?」
わけが分からなくなってきて、ちゃんとした言葉がでなくなる。
頬も熱い、おそらく赤く染まっているのだろう。
そんなわたしの様子に、オネエサンはハハハッと楽しそうに笑った。
「うふふ、本当可愛いわよねえ、メイちゃん!からかいがいがあるわぁ」
「もう!からかわないでくださいっ!」
「ごめんって!ふふ、そうよね、メイちゃんにはキョウヘイちゃんがいるものねえ」
「きょ、キョウヘイくんもそんなんじゃないですってばー!」
周りの視線なんて気にする余裕もなく、大きな声でそう言い返す。
そんなわたしの必死の様子が面白かったのか、オネエサンは本当に楽しそうだった。



結局、寝泊まりをお世話になっているポケモンセンターについたのは、てっぺんを過ぎてからだった。
オネエサンとの食事はすごく楽しかったけど、正直疲れた。
仕事で、というよりも、オネエサンにからかわれた気疲れの方が大きいのかもしれない。
そんな疲れを洗い流すようにシャワーを浴びてベッドに横になる。

―メイちゃん、よっぽどその人にメロメロなのねえ―

ふと、オネエサンの言葉を思い出した。
瞬間、反射的に熱くなる頬。
「(好きとか、そんなんじゃない…。はず)」
自分なりに頭を整理しようとがんばってみる。
でも。
「(キョウヘイくんの好き、とは違う気がするんだよなあ…)」
その答えが出ないまま、わたしはいつの間にか夢の世界へと旅立っていた。




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