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- ライモンシティ ・ 観覧車前 -

「キョウヘイくん、今日は付き合ってくれてありがとう!」
「ははっ、こちらこそ。夕日すごく綺麗だったね」

今日は、幼馴染のキョウヘイくんと観覧車を乗りに遊園地まで来ていた。たぶん映画撮影の休憩中にみた、ずっと前のライモン特集という記事の影響だと思う。その雑誌に乗ってる観覧車の写真がすごく綺麗で、どうしても乗りたくなってしまったのだ。でもたしかあの観覧車は2人じゃないと乗れないはずだし、うーんどうしようと悩んでいた矢先、偶然映画を見に来ていたキョウヘイくんを発見。そこからはもう勢いで頼み込んだのだった。

「ごめんね、いきなり観覧車に付き合って欲しいなんて、変なお願いしちゃって。なんだか急に乗りたくなっちゃって…」
「気にしないで、久しぶりに乗れて自分もすごく楽しんだし。また誘ってよ!」
「うん、ありがとうね!」
「いいえ!じゃあ自分はもう行くね。また連絡する!」

爽やかに去っていくキョウヘイくんの後ろ姿を見送ってから、私は自販機への足を向ける。出てきたミックスオレをもってベンチに座ると、植木の隣で何かがキラリと光るのが見えた。

(……あれ?なんだろ)

なんとなくソレが気になって、植木の方へ行く。そこに落ちてたのは、ライブキャスターだった。

(どうしよう、コレ。ジュンサーさんに届けなきゃだよね…?)

大事なものだし、とバッグに丁寧にしまい込む。流石に見て見ぬ振りは出来なかった。とりあえず今日はこのあと予定もないし、早くコレを届けてあげよう。きっと持ち主さんは今頃必死になって探しているはずだ。そう思って遊園地の出口に向かっていたら、ふいにわたしのライブキャスターが鳴った。
発信元には、ウッドウさんのお名前。ちょっと嫌な予感がしたけれど、出ないわけにもいかないので繋げる。

その内容は、いますぐポケウッドの映画館へ来て欲しい、ということだった。今じゃないとダメですか、と聞いたら今日はこの後予定があるからすぐ来て欲しいとのこと。仕方なく了承の返事をして相棒のスワンナにポケウッドまで飛んでもらった。ライブキャスターの落とし主には申し訳ないけれど、ウッドウさんの話しが終わってから届けることにしよう。

「メイちゃん!すまなかったね突然呼び出しちゃって」
「いいえ。こんばんわ、ウッドウさん」

映画館にあるウッドウさんの自室に行くと、少し申し訳なさそうな顔をした彼がいた。もっとも、気にしていない旨を伝えると、すぐにいつものような快活な表情に戻ったけれど。

「いやあ、今回の映画も大ヒットだったよぉ!すごい、さすがだね!」
「わっ、本当ですか?嬉しいです、ありがとうございます…!」
「それでねえ、今日は君を呼び出したのは他でもない!君にすごくいい話が来てるからなんだ」
「どうかしたんですか?」
「フフフ、実はなんと!今をときめく人気アイドル、テンマくんと君の映画共演が決まったんだよ!!」
「………」
「………」
「………」
「……え、なんだいそのリアクションは」
「いや、あの、…テンマくんって誰ですか?」
「………」
「………」
「………メイちゃん。まさか君、テンマくんを知らないのかい」
「す、すみません。映画は好きなんですけど、あんまりバラエティとか音楽番組とかは見なくって…」
「そ、そうか。うん、まあ僕は君のそういった、世間に流されない性格も含めていい女優になる素質があるなあと思ったんだし、気にすることはない」
「は、はぁ…」
「まあとにかく、撮影所の方にその脚本が回してあるから見てみてくれ!有名な脚本家の人が手掛けた純情系のラブロマンスだし、君たちが演じれば大ヒット間違いなしだ!それじゃあ、期待しているよ!」

相変わらず強引だなあ、なんて思いながら撮影所へと足を運ぶ。

「あら、メイちゃん!聞いたわよ、テンマくんとの共演が決まったんですって?羨ましいわ」
「う、……」
「どうしたの、苦い顔して」
「それが、あの、お姉さん。…テンマくんって誰なんですか?」
「……はい?」
「今をときめく人気アイドルっていうのは聞いたんですけど、わたし芸能系の話題に疎くって…」
「…メイちゃん、あなた仮にも女優でしょ」
「す、すみません…」
「…はぁ、まあいいわ。私あなたのそういうズレてるとこ好きだし。あのね、テンマくんっていったら『君にクイックボール』とか数々の大ヒット曲を出してる超人気アイドルよ!テンマくんをテレビで見ない日は正直ないわね。彼のことを知らないのなんて、あなたくらいなもだわ!」
「え、そんなにですか」
「そんなにです」
「…ファンなんですか?」
「当たり前です」

ぐぐぐっと私に顔を近付けて断言する受け付けのお姉さん。なんというか、ものすごい迫力だ。そのあまりの迫力に押されて、「よくわかりましたっ、ありがとうございましたっ」と会話を切り上げる。まだまだ語り足りないわっ、という声は聞こえなかったことにして奥へと向かった。

「やあメイちゃん、君用の脚本が届いているよ」
「あ、ありがとうございます」
「撮影の日程が後ろに書いてあるから、確認しておいてね」
「わかりました」
「がんばって、応援してるよー!」


脚本を受け取って外に出ると、突然ライブキャスターが鳴った。慌ててバックを覗き込めば、鳴っていたのは私のライブキャスターではなく、今日拾ったソレ。どうしよう、ジュンサーさんに届けるのすっかり忘れてた。申し訳ないことしたなあ、と思いながら画面を見つめる。なおも鳴り続けるライブキャスター。勝手に出るのは気が引けたものの、落とし主かもしれないし、と思い直して出てみることにした。

「……も、もしもし」
『あ、こんにちわ!すみません、そのライブキャスターを落としたものなんですけど!』
「こ、こんにちわ」
『あ、挨拶が遅れてすみません。僕、テ…、あ、いや、テツっていいます』
「あ、メイです」
『メイさんですね!今古いやつからかけてるので、音声のみでごめんなさい』
「いえ、そんな全然」
『あの、お願いがあるんです。僕ちょっと仕事が忙しくって…。次にそのライブキャスターを受け取りにいけるのがいつになるか分からないんです。できればそのままあなたに持っていてもらいたいんですけど…。だめ、でしょうか…?』
「へ?あ、いえ別にいいですよ」
『本当ですか!?ありがとうございます!あの、いきなり受け取るときに会ってくださいっていうのも怖いと思うんで、定期的に時間をみて連絡しますね!』
「わかりました。わたしもちょっと仕事が忙しいくなってしまうので、出れない時が多いかもしれないんですけど、それでもよければ」
『とんでもない!メイさんに時間があるときで十分です!ありがとうございます』
「いいえ、よろしくお願いしますね」
『よろしくお願いします!…あ、すみません。そろそろ仕事に戻らなきゃ…』
「あら、それは大変」
『またあとで連絡しますね!では!』
「はい」

ツーツーツー。

なんとも、不思議な雰囲気のテツさんとの電話はそうして切れた。ライブキャスターのタイプからして、男の子だろうなあとは思っていたけど、歳も近そうな声だし少し安心。正直、新しい映画の撮影に向けて不安が少しあったから、こんな新しい出会いもちょっと嬉しい。どうせライブキャスターを返すまでの関係なんだろうけど、せっかく出会ったんだから大事にしたいな。

「んー、気持ちい!」

ぐっと背伸びをして空を見上げる。澄んだ青色の空をみて、ほんの少し来週からはじまる映画撮影が楽しみになった。


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