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06


「レッドくん!グリーンくん!」
「よっリーフ!みんなも待たせたな!」

振り向いた先にいたのは、待ち望んでいた2人だった。

リーフがシルバーから離れ、左足を使って真っ先にレッドとグリーンに抱きつく、もとい飛びついた。ギュウ、と2人に伸ばす手に力を込めるリーフ。そんな彼女に、レッドとグリーンは慈しむような目を向け、優しく彼女の頭を撫でる。

「2人とも怪我はない?どっか痛いとこは?」
「ハッ、無事に決まってんだろ」
「大丈夫。さっきの花子さんも、ちゃんと巻いてきた。…たぶん」
「よかった…」

その言葉を聞いて、安心したように離れるリーフ。右足の痛みを堪え、2人にバレないように演技する。

「…お前らこそ怪我ねーか?まだ生徒会室に着いてねえの遅くね?」
「あ、えーっと」
「それは、そのう…」
「わ、わたしがちょっとパニクっちゃって。ほら、なんか途中で地震みたいなのあったでしょ?それで、レッドくんたち無事かなあって!それで、足を止めたというか、グズったというか…」

しどろもどろに説明するリーフの姿に、大方のことを予想したグリーンが納得した表情を見せる。正直予想の範囲内だった。先ほどこの先の連絡通路を前に止まっていた4人の姿を思い出す。あのペースで進んでいたのなら、こんなに早く追いついたのも分かる。
しかしレッドの目は誤魔化せていなかった。リーフの動きが普段と比べてぎこちないことに気付いた彼は、スっとしゃがみ込みリーフの右足を掴む。

「いたあっ!」
「………」

突然のことに思わず声を漏らすリーフ。そしてすぐにバツの悪そうな表情になった。下からのぞき見るレッドは、一見無表情でいて、怒っている。長い付き合いのある彼女は瞬時にそれを悟った。

「あ、えーっと、そのう…」
「腫れがってる」
「う……」
「立ててるから折れてはないと思うけど…。これじゃ歩くのもしんどいんじゃない?」
「おい、リーフお前怪我したの黙ってるつもりだったのか?」
「だって、心配させちゃうかなあって」
「………」
「………」
「……地震のとき、本当は、びっくりして、転んじゃっってました。あはは」
「リーフ」
「ごめんなさい…」

じっとリーフを見つめるレッドとグリーン。心配そうな、でも怒っているような。そんな彼らの表情にビクビクと怯えるリーフ。

「…ま、しゃーねえよな。側で守ってやれなかった俺らにも原因あるし」
「うん。そもそも爆発音の原因もボクたちだし」
「いや爆発音の原因はお前だけだろ。何複数系にしてんだよ」
「グリーン焦った顔してたくせに」
「それとこれとは話が別だ」
「まあいいや。リーフ、歩ける?」
「ん、ゆっくりなら」

ひょこっ、ひょこっとその場を少し歩くリーフ。辛うじて前には進めているものの、その表情は彼女の感じる痛みを物語っていた。
グリーンも右足に視線を送り、眉を潜める。そこは靴下の上からでもわかるほど膨れ上がっていた。

「うわー、いったそ。お前コケるのも下手なのな」
「うぅ…」
「とにかく、こうなった以上行くしかねえか」
「うん、リーフの足の方が大事」
「…ヒビキ、コトネ、シルバー!」
「は、はい!」
「取り敢えずこの連絡通路、突っ張りるぞ!渡りきったらお前らは生徒会室へ走れ!わかったか?」
「はいっ」

ヒビキとコトネが気持ちよく返事をする。先輩2人が来た時点で、彼らは安心していた。目の前に迫る連絡通路に対しても、先程とは違いほとんど怯えていなかった。
信頼しきって返事を返す2人の同級生の隣で、シルバーがグリーンの言葉尻を取る。

「お前たちは、って先輩たちはどうするんだ?」
「リーフがこの様子だからな。俺達は保健室に行く」
「え!やだっ!」
「リーフに拒否権ないから」
「あう…」
「リーフの治療が終わったらすぐ戻るから、生徒会室着いたらお前らは待っててくれ」
「でも、保健室って5番目の…」
「ん、まぁな。でもほっとくわけにもいかねえし。それにお前らには、生徒会室でこの学校の歴史とか、なんでこんなことが起こったのかとか、調べて欲しいんだよ。たぶん、図書室よりもこの学校に関しての資料揃ってるだろ」
「もし3人で行動するのが不安なら、ボクが付いてくけど…」

渋る3人にレッドが声をかけると、とんでもない!とでも言うように首を激しく横に振るヒビキとコトネ。そして3人で目を合わせ、ニッと笑った。

「任せてください!」
「私たちだけで大丈夫です!」

その返事にグリーンも二ッと笑う。そしてスっとリーフをお姫様抱っこで抱え上げた。

「よし、んじゃ行くぜ!リーフ、しっかり捕まっとけよ!」

グリーンとリーフが先頭を走り、ヒビキ、コトネ、シルバーと続く。そしてレッドが1番後ろを援護した。
連絡通路といっても15mほどのもので、そう長いものではない。彼らが本気で走りきれば、数秒で渡りきるだろう。

「うわっ!」
「ヒビキくん!」
「チッ!ヒビキ、ふりきって走れっ!」

グリーンが足を踏み入れても、何も起こらなかった。心の隅で不思議に思いながらも、とにかく足を進める一同。
しかし突然、ヒビキが声を上げた。転ぶように腰をついた彼は、驚いた顔をして自分の左足を見ている。

「ヒビキ!?」
「あ、いま、て、手が…!僕の足を掴んで!!」
「何っ!?」

咄嗟に足を止めたコトネとシルバーがヒビキの足へと目線を送るが、手なんて見えない。レッドがヒビキの方へ走りよった。

「まだ掴まれてる?」
「あ、いや、今はもう…」
「なら取り敢えず起きて、走ろうっ」
「は、はいっ」

レッドを信じて先に進むグリーンを横目に、ヒビキへと手を差し伸べるレッド。その時、

「きゃあああああ!」
「コトネッ!?」
「窓っ!窓に!!」
「なっ…!」

廊下に響き渡るコトネの悲鳴。彼女の言う通り窓に目を向け、言葉を失った。透明の窓に、バチンバチンと手形が打ち付けられていく。
生々しい液体音と共に、赤黒く付く手形。それはまるで、血のような色をしていた。打ち付けられていく手形は、次第に大きな音を立てて窓を叩いていく。

「とにかく渡りきろう。コトネ、走れる?」
「は、はい」
「ん、行くよ」

パニックに陥りそうになったコトネに、レッドがそう促す。ぐっとその背中を押し、走らせた。

「さっきヒビキを襲った謎の手にも注意して走れよ」
「うん」

ドンドン ドンドン ドンドン…!
バリバリバリバリっ


「う、わっ…!」
「くっ…!」
「止まるな、走れ!」

遂に、ドンドンと窓に打ち付けられていた手が、窓を破る。止まりそうになったヒビキとコトネに、シルバーが声をかけた。その言葉に反応して、緩めた速度を元に戻した。
先を行くグリーンとリーフは、もうすでに連絡通路を渡り切り4人を待っている。レッドたちも、多少足止まったものの、もう半分以上は来ていた。

「もし何かに掴まれても、振り切って走れ!力は無いみたいだ!」
「はいっ!」

シルバーがどこからか見えない手に腕を掴まれるが、振り切りながらそう伝える。確かにシルバーの言う通り、しっかりと誰かに触られた感触はあるものの、振り切れないものではなかった。
ジャリジャリと割れた窓ガラスの破片を踏みながら、ついに4人は連絡通路を渡りきった。すでにグリーンの腕から降りたリーフの隣で、はぁ、はぁ、と息を荒げる一同。顔を僅かにしかめ、触られた箇所に目を向ける。

「ひっ…」

思わずコトネが声を漏らした。掴まれた手首には、ガッシリと彼女の手首を掴んだ赤黒い手形がついていた。痛みなどなかっただけに、その手形に対する精神的な恐怖がのしかかる。

「何これ…」
「血の手跡だね。…服の上には何の跡もなかったのに」
「なんだか、気持ち悪いな」

先に渡りきった2人も同様に、同じような手形が着いていた。あまり、血の手形が自分の素肌についていて気分のいい人はいないだろう。

「窓割れてたけど、みんなその手形以外に無事?ガラスの破片で怪我をした人はいない?大丈夫だった?」
「あ、僕は大丈夫です」
「私も!」
「俺もです」
「…ボクも」
「よかったぁ」
「リーフ先輩は、足の調子大丈夫ですか?」
「あ、うん。さっきよりはだいぶマシだよ。ありがとうコトネちゃん」
「…んじゃ、当初の計画通りこっからは別行動だな」
「あの、わたし、別に無理して行かなくっても…」
「ダメだ!」
「言ったでしょ、リーフに拒否権ないから」
「うー、」
「じゃあ、調査はお前らに任せたぜ?絶対無茶はすんなよ」
「はい!もちろん!」
「わかってます!」
「…シルバー、頼んだ」
「…見張っときます」

些かの不安をおぼえながらも、後輩を信じることにしたグリーンとレッド。ついさっきまで体についた赤い手形に怯えていた人物だとは思えない張り切りっぷりだ。頼られたことが嬉しいのか、それとも。

「じゃーな、道草すんなよ!」
「バイビー!」
「レッド殺すぞ!」

まるでお留守番を任された反抗期の子供のごとく、キラキラと目を輝かせる2人の後輩に一念を託し、お決まりの台詞で茶化されながら保険室の方へと歩き出すグリーン。その後ろを、リーフを軽々と抱え上げたレッドが追う。
後輩組の3人も、そんな3人の姿を見送ってから生徒会室へと繋がる廊下へと進んでいった。



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