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05


一方リーフ達は、レッドたちを信じて非常階段を駆け下りていた。走り出し、元気を取り戻したコトネが先陣を切る。しっかりしなくては、みんなの足手まといになるわけにはいかない…!
しかし彼女たちは、走りながら大きな違和感を感じていた。外に面するその階段だが、空気の暑さや風などは何1つ感じられないのだ。その景色は、普段自分たちがいる世界となんら変わった所は見受けられないというのに。
…それが逆に、4人の不安を煽っていた。

「とにかく、1階についたら、このまま外に出よう!連絡通路は次の七不思議だし、避けた方がいい!」
「了解っ」

階段を駆け下りながら息もとぎれとぎれにヒビキがそう提案する。そもそもこの非常階段からは、このまま直接外に出て生徒会室に直行した方が近い。反対するものなど1人もいなかった。
しかし、いち早く1階に到達したヒビキが柵に手をかけた、その瞬間。

「うわっ!?」
「なにこれっ?」

ヒビキ達が階段の柵を飛び越えようとした瞬間のことだった。バチバチという電気のような音と共に、柵にかけた手が弾かれる。

「…どうやらオレ達を外に出さないつもりらしいな」

ボソリと呟いたシルバーの声が嫌に耳に響いた。息を整えていたコトネが眉をひそめる。彼女の先には教室棟の1階廊下。この廊下を抜ければ、4つ目の怪談の舞台である連絡通路だ。

「…つまり、連絡通路通らなきゃダメってコトネ」

コトネの声が耳に響く。もたもたしていられないのは全員が解っていた。レッドとグリーンが自分たちのために時間を稼いでくれている、無駄にするわけにはいかない。

「とにかく行くぞ!」
「うん…!」

シルバーが1番に走り出した。手を引かれていたリーフも、彼の手をギュッと握り一緒に走り出す。その後ろからヒビキとコトネが手をつないで後を追った。その時、


『ぐぎゃあああああああああああああああああああああああああ!』


「きゃあ!?」
「な、なにっ!?」
「また地震かっ!?」

真上から聞こえてくる叫び、そして地震のような振動。突然のことに驚いたリーフが足を縺らせ転倒した。慌てて駆け寄る3人。

「リーフ先輩、大丈夫か…?」
「あ、うん。全然平気だよ。大丈夫」

そう声をかけるシルバーに笑いかけ、立ち上がろうとするリーフ。しかしその表情はきつくしかめられ、右足を庇うように立ち上がる。

「リーフ先輩、ちょっとごめん」
「へ?わっ、ヒビキくん!?」

そんな彼女の様子に違和感を覚えたヒビキが、一言だけ断りを入れてリーフの足元へとしゃがむ。そしてそのままリーフのソックスを下げた。

「っ!」
「…やっぱり、痛むんですね」
「あ、でも、ちょっとひねっちゃっただけで、もう痛くないしすぐなお…いたっ!」
「まだ痛んでるじゃないですか」

ヒビキに患部をグッと押され、痛みに顔を歪めるリーフ。うっすらと涙目だ。

「もう赤く晴れ上がってきてるし、あんまり無理するのはまずいですよ、コレ。実はいま、立ってるのもやっとなんじゃないですか?」
「…そ、んなこと。とにかく、わたしは平気だよ。ね、早く行こ?」

ヒビキの問いかけに、思わず言葉を濁し視線を逸らすリーフ。実際、右足に走る激痛は尋常ではなかった。だが彼女は、後輩達を守らなければならない先輩としてここで弱音を吐くわけにはいかなかった。

「…先輩、悪い」
「きゃあ!?」
「わわっ、ちょっ、シルバー!?」
「何やってるの!?」

尚も怪我を大丈夫だと言い張るリーフの様子に、このままココでじっとしている危機感をもったシルバーが行動に移す。一言だけ断りをいれた彼は驚くヒビキとコトネと無視してリーフを抱え上げた。お姫様抱っこだなんて可愛い抱き上げ方ではなく、まるで荷物を背負うかのように左肩の上に乗せたのである。

「とにかく時間がない。レッド先輩とグリーン先輩が作ってくれた時間を無駄にしないためにも行くぞ」
「う、うん…!」

戸惑う同級生にそう投げかけ、状況の飲み込めないリーフを担いだまま走り出すシルバー。背後から後を追うヒビキとコトネからしてみれば、なかなかカオスな光景である。

「(これ、レッドさんとグリーンさんが見たら僕たちヤバイんじゃない…?)」

そんな様子に別の意味で不安を覚えるヒビキだったが、彼の心配はすぐに解消されることとなる。1階の教室棟の廊下を渡り終えたシルバーが、リーフを肩から下ろしたからだ。リーフはシルバーの肩を借りて立っていた。彼らの目の前に広がるのは、連絡通路。4つ目の階段の舞台である。

「ごめんね、シルバーくん」
「別に、あんたのためじゃない。あそこでグダグダして、さっきのみたいな化物が出てきたら俺が困るからやっただけだ」
「ふふ、そっか。ありがとう」
「フンッ」

リーフから素直に礼を言われ、僅かに顔を赤らめるシルバー。

「さて、どうしよっか。非常階段からのショートカットが行けない以上、ここを通るしかないけど…」
「見た感じは普通、よね」
「問題は今までも見た感じは普通だったってことだよね」
「………」

誰かがゴクリと唾を飲んだ。行くしかない、という思いは4人が共通して思っていたことだった。しかし、どう見てもリーフはまだ走れるような状況じゃない。仮にまたシルバーが彼女を抱え上げるとしても、またさっきのような得体の知れないものが出たとき、対処しきる自信がなかった。不安が、4人の心を襲う。
その時、後ろから足音が聞こえてきた。その音にビクリと肩を震わせる4人。レッドとグリーンか、それともまたなにか得体の知れない化物なのか。期待半分、恐怖半分で、そっと後ろを振り返った。




*




時間は遡り、レッドとグリーン。彼らは先に行った後輩たちのために時間を出来るだけ稼ぐべく奮闘していた。モノを投げ、消火器を噴射してみる。しかし、その行為が目の前の少女に対して効果を得ることは無かった。

「アハハハハ…、ねェ、もっと遊びまショウ?」
「くっそ、どーやったら死ぬんだよコイツ…」

ジリジリと後退しながら、花子を見据えてそう呟くグリーン。かろうじて口元に笑みが浮かんでいるものの、その額からは汗が流れている。その隣では、同じように汗を浮かべたレッドが無言で睨んでいた。

「リーフたち、ちゃんと逃げられてるならいいけど」
「…大丈夫だろ、アイツらちゃんとやるときはやる奴らだぜ」
「まぁね」
「んなことよりも、今はコイツどーにかしようぜ」
「ヒビキたちに秘策があるとか言ってたのはどうしたの」
「んなもん、アイツ等行かせるためのウソに決まってんだろ」
「…グリーン女の子の扱い得意でしょ、任せる」
「ざっけんな、俺はこんなロリコン趣味はねえ」
「あ、否定するのそっちなんだ」

目線を外さないまま口喧嘩を始める2人。そんな2人をニタリと笑いながら見つめる花子は、何を考えているのか楽しそうにその様子を見ていた。

「だいたいなんでアイツ、トイレから出て来れてんだよ。テケテケとは違う原理なのか?」
「そんなのボクが知るわけない」
「…ですよねー」

当然のレッドの返答に、思わず苦笑を漏らすグリーン。しかしこればかりはどうしようもなかった。

「アハハッ、ねェお話終わったノ?」
「あー、ほら。お呼びだよグリーン」
「いやいや、意外とお前目当てかも知んねーぜ?」
「花子とも遊びマショウ?」

ゆっくりと2人に向かって手を伸ばす花子。それを見たレッドとグリーンは、もう半歩後ずさった。

「せめて弱点とか分かればまだマシなんだけどな」
「……あ、思い出した」
「あ?何だよレッド、どーし…!?」

バリバリバリバリッ!!

突然教室の窓ガラスが割れた。思わず腕で顔を隠し身を守るレッドとグリーン。ジャラジャラと破片が落ちる音を耳にしながら腕を下せば、先ほどまで笑っていた少女の顔は無表情になり、その髪は重力に逆らうかのごとく宙に浮いていた。あまりに非現実的な光景に言葉を飲む2人。

「…アレは、やばいだろ」
「ん…。とりあえず、リーフ達も心配だし、そろそろ型をつけようか」
「……は?」

レッドの言葉に怪訝そうな表情で反応したグリーンがそちらを向くと、幼馴染の手にあるのはライター。ジュボッという音と共にレッドがライターに火をつけると、それを見たとたん、花子の顔が苦痛に歪んだ。

「ヤメテ…ソレ嫌なノ…」
「…やっぱり」

彼女の反応に何か確信を得たレッドが呟く。そしておもむろにポケットから見覚えのある缶を取り出した。整髪剤である。ヒビキがいつも愛用しているスプレータイプのものだ。大方いつものように、からかいのつもりで彼のカバンからくすねたのだろうが、反対の手に握られているライターのせいで嫌な予想しかしない。グリーンは冷や汗を垂らした。

「お、おいレッド?それって、もしかしても…」
「いくよグリーン、伏せて!」

グリーンの言葉を待たずに、花子に向かって勢いよくスプレーを吹きかける。そして持っていたライターに火を付け、そのスプレーの前へと持っていた。途端に、火炎放射器よろしく轟々と火を噴射するソレ。


『ぐぎゃあああああああああああああああああああああああああ!』

ドオオオオオオオオオオオオン



「っ」
「くッ」

火を浴びた瞬間、悲痛な断末魔と共に地震のごとく揺れる床。そしてどこからともなく吹き荒れ出した風により、ガタガタと机や椅子が飛びかった。そのあまりにも予想外な展開に、耳に響いた断末魔のような声を気にする余裕などグリーンにはない。先ほどよりも低く身をかがめ、机の脚を必死で握った。

「な、な…!?」
「グリーン、はやく逃げよう」
「あ、え…?おい、レッド」

僅かに収まった現状に慣れる間もなく、立ち上がったレッドの後に続くグリーン。自分が置かれている現状が把握できないながらも、とにかく今は長年連れ添った悪友を信じることにした。彼らが慌てて教室を出て、さきほどリーフたちが向かった非常階段を見る。まだ僅かに煙の立ち込める視界の中、伺ったその廊下の先にリーフ達の姿はない。無事に2階は抜けたせたのだと安堵した。

「とにかく急ごう」
「おう!」


後ろの様子を確認するもなく、彼らは華麗非常階段を駆け降りる。
花子の追ってくる気配は無い。巻いたか…。内心ホッとするグリーンの視線の先に、見覚えのある4人の姿があった。
外をつっきって生徒会室に向かおうとしていた足を止め、まじまじとその様子をみる。

「あれって、リーフたちか…?」
「みたいだね」
「本物…?」
「…そうなんじゃない?だってほら、コレ見て」

レッドの方を見れば、先ほど教室からくすねてきたチョークを非常階段から外に向かって投げる。
バチバチッ、という音と共にはじきかえってくるソレ。

「結界みたいなのが張られてるみたい。ここは通れないよ」
「なるほどな。それでアイツら連絡通路の方に向かったわけか。ったく、またさっきのみたいなのが来たらどーすんだアホ」
「とにかく行こう、早く合流した方がいい」

レッドとグリーンは、4人の方向に進路を変え、再び走り出した。



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