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リーフから体を離し、しっかりと彼女の目を見つめる。

「聞いて、怖いだろうけれどたぶんリーフがちゃんと終わらせないと駄目だ。やり方は覚えてる?」

頷くリーフ。
その瞳には恐怖の色が浮かんでいるが、口はきゅっと強く結ばれ決意を表していた。

「…レッド、リーフ待て。たぶんコレ、普通のやり方じゃやべえ」
「え…?」
「周り、見てみろよ」
「…っ!?」

人形が倒れたせいなのか、さっきまではいなかったはずの 体が不自然に曲がった男の子、片腕と片足の無い女性、四つん這いで頭が逆さ向きになっている男性など、明らかに異質の存在たちが部屋中にいた。
それを目にして、リーフが再び震えだす。
それでも必死に口の中の塩水は出すまいと堪えているが。

「…『いちぬけ』だ」
「へ?」
「おにごっこの方だよ、いち抜けたでリーフを離脱させて、残りは僕とグリーンで処理しよう」
「…1番最初の事例でやってたやつか」

あの記事は気になって何回も読みなおしたから、内容はよく覚えている。

「うん。2人を待ってる間にいろいろ調べてたんだ。ひとりかくれんぼを終わらせて除霊できる霊体の数は1つだけで、それ以上の霊が集まった場合はおにごっこで他の人と消していくしか無いんだ。…でも準備がいる。グリーン、ここは任せていい?」
「おう、ひとりで平気か?」
「うん、暇だったから何回も読みなおしたし、流れは頭に入ってる。…リーフをよろしく」

そう頼んで、懐中電灯を便りにリビングに戻る。
確か、昼間にお守り代わりだと余分に作ったかくれんぼの人形が残っていたはずだ。
…鬼ごっこをする場合は、たしか次の人が人形を刺す前まで進めていかなければならないはずだ。

途中、台所でもう1度ペットボトルに塩水を作った。
今度は水筒やコップも使って、できるだけ多く確保する。

そして見つけた人形を手に、風呂場へ行く。
真っ暗な風呂場はなかなか雰囲気があった。
ジワリ、と体に汗が伝う。
人形の名前…、スナック菓子でいいか。

「君の名前は ぽてち だ。…『今の鬼はリーフだから、今の鬼はリーフだから、今の鬼はリーフだから』」

名前を伝え、鬼を伝えて、1度浴槽の水に人形を浸けた。
正直、中から手でも出てくるんじゃないかと内心ドキドキしていた。
嬉しいことにそんなことは起こらず、無事に人形を引き上げる。
…よし、あとはリーフにかくれんぼを終了してもらえばいいだけだ。
その人形を手にしたまま、もう1度リビングを抜け、2人が待つ部屋に向かった。

部屋にはグリーンとリーフが、霊達に囲まれるように身を寄せ合っていた。
さすがにその光景に足が竦んだが、そうも言ってられないと彼らの方へ駆け寄る。

「…リーフ、人形に塩水かけて、口の吹きかけたら、『リーフ1抜けた、リーフ1抜けた、次はレッドが隠れんぼ』って言うんだ」

すると、リーフがそんなことできない、とでもいうようにブンブンと首を振った。
声を出せないのは、まだちゃんと塩水を口に含んでいるせいか。
僕たちのことを案じてくれている彼女の頭を、そっと撫でる。

「僕たちなら大丈夫。お守りだって言って予備の人形も作ってあるし…。お願いだ」
「リーフ、ゴタゴタやってる時間ねえぞ!」
「…………!」

泣きそうなリーフをグリーンがどやす。
リーフも聞き入れてくれたのか、人形をぎゅっと手に取った。

グリーンから渡されたペットボトルの塩水をかける。
そして、プッと口の中のそれも吐きかけた。

「…『リーフ1抜けた、リーフ1抜けた、次はレッドが隠れんぼ』」

リーフがそうつぶやいた瞬間、ビクン、と人形が跳ね、そして動かなくなった。
それと同時に、人形に刃物を刺す。
ザッ、という音が嫌に響いた。

「…グリーン、僕はすぐ隠れなきゃいけない。1回だけ説明するから、よく覚えて」
「わかった」
「リーフ、君はポケモンたちとロビーにいて。あそこなら明るいし、きっとポケモンもボールから出せる」
「うん、でも…」
「リーフ、俺のポケモンたち頼んだぜ」
「…分かった、ごめんね」

ぎゅっと受け取ったボールのついたベルトを握りしめると、リーフはたたたっと玄関へ向かった。

「…じゃあ、流れの説明。電話は使えないみたいだから、大声でのやりとりになると思う。…まず、残りの予備の人形は全部洗面台に置いてある。その人形を左から順番に使ってく。人形を手にとって名前を決める、そして浴槽に1度沈めたら、取り上げて『今の鬼はレッド』って3回はっきり繰り返して」
「あぁ」
「そしたら、僕がさっきみたいに『次はグリーンが隠れんぼ』って言う。それを聞いたらすぐに刃物を人形に刺して、隠れてくれ。そしたらグリーンは僕の声を待って、3抜けた、だ」
「わかった、覚えたぜ。…人形は今みたいに持ってきてもいいのか?」
「あぁ、鬼じゃないからな。僕は参加したあとのグリーンに見つからなければいいんだ」
「なるほど、本来の通り鬼から隠れんぼしてるわけだ」
「…健闘を祈るよ。それじゃ、僕はこのクローゼットに隠れる」

塩水の入った水筒を2つ渡して、クローゼットに向かう。
視界の端にチラリと霊の姿を捉えたが、見なかったことにした。

リーフは無事にロビーについただろうか。
ピカチュウたちが、守ってくれているといいんだけれど。
そう心配しながら、グリーンの声が聞こえるのを待った。

それから数分くらい経ってから、グリーンの声がした。
よし。

「…2抜けた、2抜けた、次はグリーンがかくれんぼ」



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