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7
雪崩れ込むように部屋に入る。
なんとか体制を整えて、クローゼットに手をかけた。
「リーフ!」
ぐっと力を入れたけれど、案の定クローゼットは開かない。
「くそっ、こっちも開かねえのかよ!」
「リーフ、聞こえる?助けにきたよ」
「…………」
「リーフ、そこにいるんでしょ、返事して」
一向に返事がない。
気絶でもしているのか、それとも僕達の声が聞こえていないのか。
「…そうだ、人形!」
「え?」
「リーフの人形が、なかったんだ。風呂場に」
「どういうこと」
「…俺の人形とリーフの人形、予定通りバスタブの端と端に確かに置いておいたはずなんだ。なのに、俺がかくれんぼを終わらせようと風呂場に行った時には何もなくて…」
「動いてたってこと?」
「あぁ、とりあえず探しに出てたら、玄関口で音がしたんだ。結局、それはたぶんレッドだったんだけどさ、そこで見つけたんだよ。俺の人形」
「………」
「それで、とにかく終わらせねえとって、その場所で見つけたって言ってさ。そしたら、電話口のノイズが消えてお前と電話出来るようになったんだ」
…それであの時、放心状態で玄関口に立っていたのか。
「じゃあ、リーフの人形は…?」
「わからねえ、少なくとも玄関口と台所にはなかったぜ」
確かに、暗闇の中とはいえそれらしい人形があれば目につくはずだ。
僕とグリーンがここまで来る中で、人形の姿は見えなかった。
人形は、いったいどこに…?
「おいリーフ、聞こえてるのか!?気絶してんなら目ェ覚ませ!塩水持ってきたぞ!」
「…………」
「リーフ!!!」
ダンッ、とグリーンがクローゼットの扉を叩いた。
すると、中から物音がする。
「…ん、うぅ…」
リーフの声だ!
「リーフ!」
「…リーフ、しっかりして」
「…んぅ、レッドくん、グリーンくん…?」
「リーフ!聞こえるか、助けに来たぜ」
「あ、ああ、ああァァ、いや、キタ、キタ、来ないで、いやっ」
「リーフ?」
「あ、あ、あ、うるさい、来てる、いや、やめてっ」
「落ち着いてリーフ、僕だよ」
「やめて、やめてヤメテヤメテ…!」
「おいっ」
「いやああぁぁぁあああああ!!!!」
ドンッッッ!!
「ッ!?」
クローゼットの内側から、何かが強い力でぶつかった。
中で何が起きているんだ。
「リーフ、無事!?」
「レッドくん、レッドくん助けて、来てるの、そこに、いや、いやだよう…!」
「落ち着いてリーフ、すぐに助けてあげるから」
「リーフ!中からクローゼットを開けれるか!?」
「グリーンくん、お願い、来てるの…そこに!」
ダメだ、完全にパニックに陥っている。
「チッ。レッド、一緒にクローゼット引くぜ。いち、に、さんっ!」
バンッ!!
…渾身の力を込めてドアを開けば、クローゼットが勢い良く開いた。
「リーフ!」
慌てて中でぐったりとしている彼女に駆け寄る。
意識は朦朧としていて、目は開けているものの視点がはっきりと定まっていない。
それでもガタガタと全身を震わせて、必死に右手でクローゼットの奥を指さしていた。
「おい、レッド…、早くそこから離れたほうがいいぜ」
静かにグリーンが呟く。
リーフとグリーンの視線の先。
そこには、赤い糸をだらりと巻きつけられた人形がふわふわと浮いていた。
「ッ!?」
直感でヤバイと感じた。
瞬時に汗が流れだして、体が震える。
「…っ、グリーン!塩水だっ!」
「お、おうっ!」
咄嗟にそう口にして、グリーンからペットボトルを受け取る。
そしてリーフの口にそれを当てて、無理矢理 口に含ませた。
「んっ、んあっ!?」
突然口に塩水を入れられて驚いたのだろう。
ビクリ、と体を震わせて飛び起きるリーフ。
「リーフ、塩水持ってきた、口に含んで」
必要最低限の単語だけを口にして伝える。
彼女もさっきまでの記憶があるようで、すぐにコクリと頷いておとなしく口に入れる。
しかしその間も、彼女の視線は人形を追っていた。
「リーフ、とにかくクローゼットから出よう」
彼女の手を無理矢理引いて、クローゼットから脱出する。
どうやら腰を抜かしてしまったようで、リーフは僕にひっぱられながら這うようにして出てきた。
「レッド、塩水貸してくれ」
その横でグリーンが声をかけてくる。
何か考えがあるらしい、素直にペットボトルを彼に渡した。
彼の視線はいままで僕たちがいたクローゼットの方向。
それを追えば、そこには先ほどまでクローゼットの奥に浮かんでいた人形がいた。
「レッド、リーフを頼んだぜっ」
そう声をかけると、グリーンはそのまま中の塩水を盛大に人形に向かって浴びせかけた。
…ここ、僕のクローゼットなんだけど。
そんなことが一瞬頭をよぎったが、いまはそれどころではない。
塩水を浴びた人形は、ガタガタと震え、そしてドンッドンッと部屋中を暴れてぶつかり出した。
咄嗟に自分の体でリーフを覆って守る。
…塩水は、どうやら効果テキメンだったらしい。
30秒もすると、ばたりと床に落ちて動かなくなった。
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