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しばらく歩く音や物音が続いたあと、テレビのものだと思われる洋楽が聞こえ出した。
音楽番組のチャンネルにでも合わせたのだろう。

「今、電気消してテレビつけたぜ」
「数、数えるよ。いち、に、さん、し…」

リーフの声が10を数えきる。
いまから人形に刃物を刺すのか…。

「じゃあ、次は風呂場だな。行くぜリーフ」
「うん…」
『転ばないようにね』

再び2人の足音が聞こえる。
さっきよりもすこし慎重なその音は、これからのことに恐怖を覚えているのだろうか。
いろいろ調べてみたところ、どうやら爪などを入れた人形に刃物を刺すことで、人形に呼び込まれた霊が開放されるらしい。
呼び込まれる霊に決まりは無いようで、ログを見る限り子供や男性、女性、はては動物霊まで様々だった。

再びバチャリという水音がする。
どうやらぬいぐるみを浴槽から取り出したみたいだ。


「じゃがりこ見つけた」
「かぷりこ見つけた」
「…刺すぜ」
「うん、同時に、ね」
「せーの!」

ザッということが鈍く聞こえた。
中に詰めた米のせいだろう。
打ち合わせだと、それぞれ浴槽の端と端にぬいぐるみを置いて離れることになっている。

「よし、隠れろ」

ばたばたと足早な音がする。
グリーンは彼の部屋のクローゼット。
リーフは僕の部屋のクローゼットにそれぞれ隠れる予定だ。
ここからは、グリーンとリーフも1人になる。

時刻は3時13分。
かくれんぼを開始してから、早くも20分近くの時間が経っている。

「部屋には鍵かけなくていいよね?」
「ああ、なんかあったときレッドがすぐ入れるように、鍵は開けとけ。…気をつけろよ」
「うん、グリーンもね」
「じゃあ、また後でな」
『ふたりとも、隠れたらちゃんと連絡して』
「了解」
「わかった」

おそらく2人がそれぞれ部屋に入ったのだろう。
ばたんという音と、ガラガラとクローゼットを開け閉めする音が響いた。

「隠れたぜ」
『了解』
「…わたしも、いまクローゼット閉めたよ」
「よし、ここからはただ待つだけだな」
『終了は何時くらいにするの』
「長くても4時くらいじゃねーか?」

4時か、1時間程度。
時間的には丁度いいか。

『2人とも、塩水はちゃんと持ってる?』
「うん、あるよ」
「俺も。………ん、なんだっ?」
『!? どうしたグリーン!」

良かった。
そう口にしようとした瞬間、グリーンが何かに驚いた。
その声を聞いたからなのか、それとも主人の危機を本能的に察知したからなのか、ピショットがバタバタと突然羽を開いた。
正直それにも驚いたけれど、いまは僕が驚いている場合じゃない。
グリーンの反応を待つ。

『グリーン、どうした』
「…リーフ、聞こえるか?」
「うん、聞こえてる」
『おい、2人ともどうしたんだよ」
「…テレビの音が変わった」

警戒しているのか、ぼそりと僕にそう伝えたグリーンは、じっと声を押し殺した。
テレビの音が変わった…?
僕もそれを確かめるべく、電話ごしに聞こえる音に耳をすませる。

…たしかに、先ほどまで何かの洋楽が流れてたのだが、どうにも様子がおかしい。
途中途中で音が途切れたり、同じフレーズが不自然にループしている。
ゆっくりになったり、早くなったり、明らかに変だ。

「やだ、ど…て…」
「来て…みた…な」
『グリーン?リーフ?』

と、電話越しにノイズが入る用になった。
リーフとグリーンの声がとぎれとぎれに聞こえる。
…電話にまで影響が出てるってことか?

『おいグリーン、リーフ。聞こえてるか?』
「あぁ、聞こ…る」
「わた…も」
『声が途切れてはっきり聞こえない。そっちはどうだ」
「ちゃんと…てるぜ」

どうやら「ちゃんと聞こえてるぜ」と言ったみたいだ。
おかしくなってるのは僕の方だけみたいだ。

「レッ…、音が止ん…」
『何?よく聞こえない』
「…て、爪…とが」
『おい、グリーン?』
「やだ、音…だん近づい…」
『リーフ、どうしたんだ」

どうやら、家の中で何かが起こっているらしい。
爪…。
ぬいぐるみに入れた爪か?

『爪って何、何が起こってるの』
「こわ…、レッドく…」
『リーフ落ち着いて、大丈夫、そこから出ない限り襲われることはないから」
「何て言っ…、…くん?……ンくん?」
『リーフ…?ねえ、聞こえてるの、リーフ?」
「なあレッド、…れマジでヤバ…、…はもうちょ…、リーフそっち…だ?」
「グリ…ん?レッ…ん?……にも、聞こ…いよ」
「リーフ?返事…ろよ」

ノイズがひどくなっていく。
それに比例して、2人の声が聞こえづらい。
僕の声はちゃんと届いているのか。
そもそもグリーンとリーフはお互いの声が聞こえていないのか?

「……きゃあッ!!」
「何だっ!?」
『どうしたの!!』

突然、リーフが悲鳴を上げる。
と、同時に電話越しに、がたんという音が聞こえた。

「…うしよ、塩水…こぼし…」
「リーフ、…した!?何があっ…!?」

電話越しで必死にリーフに呼びかけるグリーン。
その一方で僕は電話口から聞こえた単語にぞっと身を震わせた。

…塩水が、こぼれたのか?



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