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昼下がりの午後、リーフ行きつけのカフェでまったりしていた時のことだ。

「ねえ、レッドくん、グリーンくん。ひとりかくれんぼって知ってる?」

ポケギアと睨めっこをしていた彼女がそう尋ねてきた。

「知らね。なにそれ」

ズズッとアイスコーヒーを飲みながらグリーンが返すと、リーフ自身も小首をかしげながら口を開いた。

「んー、なんかね。降霊術?らしいよ」
「降霊術?ゴーストタイプのポケモンを呼び出すとかそういう系か?」
「ううん、ポケモンじゃなくってガチなやつ。ユウレイ」

ユウレイ、と言われて瞬時に脳裏に浮かんだのは、シオンタウンのガラガラ。
あれが彼女のいうゴーストタイプのポケモンではないとするなら、なるほどユウレイは存在するだろう。

「おまえ怖い話とか苦手じゃなかったか?」
「そうなんだけどね、最近ちょっとはまっちゃって」
「それで最近、深夜に急に怖くなったって電話してくんのか。しょうもない理由で叩き起こされる俺たちの身にもなれよな。なあレッド」
「僕は叩き起こされたことない」
「だって深夜だよ、レッドくん寝てるかもしれないじゃない。グリーンくんだったら気軽に呼び出せるし」
「お前ホント俺の扱いが理不尽だな!次電話来てもぜってー行ってやんねえ」

こんなことを言いながら、結局電話がかかってきたら血相を変えてリーフのところへ行くのがグリーンだ。
用意に想像出来る近い未来ではあるが、一応まあまあとグリーンの機嫌をなだめるリーフ。
こうなるとしばらく終わりがないので、しょうがないから話を元に戻してやることにした。

「で、そのひとりかくれんぼがどうしたの」
「あ、そうそう」

僕の出した助け舟に乗ってきたリーフは、打って変わってご機嫌に話しを続けた。

「ジョウト地方では、ひとりおにごっこ とも言うらしいんだけどね。朝の3時に部屋でひとりっきりでする降霊術で、霊感のないひとでも簡単に行える降霊術なんだって!おもしろそうじゃない?」
「おもしろそうって…。お前には御霊に対して冥福を祈る気持ちとかねえのか」
「グリーン、冥福を祈るの使い方間違ってる。冥福って、地獄でラッキーがあるといいねって意味」
「…レッドってこういうときだけなんで饒舌だよな」
「それで、ぜひグリーンくんに試してほしいな♪って思って!」
「試してほしいな♪じゃねえよ、なんて重いものを軽々しく頼んでんだ」
「だってわたし怖いもん」
「自分がやりたくないことを人に強要するんじゃありません」

そんな2人の夫婦漫才のような会話を聞きながら、カラカラとアイスコーヒーの氷をかき混ぜて遊ぶ。
ひとり降霊術ね。

「ま、たしかにゴーストタイプのポケモンとユウレイは別物みたいだし。僕も少し興味あるかも」
「本当!?ひとりでするの心細かったから、レッドくん一緒にやってくれたら嬉しい!」

きゅるん、と目を輝かせて僕を見るリーフ。
かわいい。
そんな彼女の様子を見て、今度はグリーンが焦ったように口を開いた。

「え、おい待てよ!なに2人で盛り上がってんだよ。…ったく、しょーがねえな。お前ら2人だとそそっかしくて目が離せねえから、俺様も…」

自分ひとりだけ、仲間はずれになったように感じたのか。
くるりと意見を180度変えたさみしがりやのグリーンは、どこかえらそうに加わってきた。
単純だなあ。
しかし、そんな彼にリーフの言葉が突き刺さる。

「あ、ごめんねグリーンくん。それは無理なの」
「え?」
「ひとりかくれんぼの実行中に何かトラブルがあった時のために、だれか助けてくれる人が必要なんだって。だから、…ごめんねグリーンくん」
「どんまい、グリーン」

申し訳無さそうに、悪気のないリーフがグリーンに謝る。
要するに待機要因だ。
恐怖の共有もできなければ、達成感も共有できないポジション。
まあ、グリーンは強がりな怖がりだから、あんまりこういう降霊術とかに関わらないほうが本人のためなのかもしれない。

「それでね、ひとりかくれんぼのやりかたなんだけど…」

ひとりだけ会話から外されてぽかんとするグリーンなど眼中にないのか。
リーフは、嬉しそうに実行方法の書かれたポケギアのページを僕に見せる。

「ん」
「へー、どれどれ?」
「わ、ちょ、グリーン」

しかしその程度でめげる彼ではなかった。
ぐいっと僕とリーフの間に入り込み、強引にポケギアを除き見る。

「もう、グリーンくん!」

楽しみを邪魔されたリーフが、こらっと怒った。
そんな彼女に向かってニヤリと笑ったグリーンは、まるで世界最高の発明でもしたかのような誇らしげなかおで口を開いた。

「いいこと思いついたんだけどよ、レッドのかわりに俺がリーフとひとりかくれんぼしてやるよ」
「どゆこと?」
「つまり、レッドが待機役で、俺とリーフが実行役ってこと!レッドより俺の方が便りになるし、その方がリーフも怖くないだろ?」
「ううん、レッドくん冷静だから、グリーンくんより便りになるよ」
「ぐ…」

辛辣なリーフの言葉にダメージを受けるグリーン。
かわいそうに。
ま、フォローしてあげないけど。

「でも、グリーンくんそんなにしてみたかったの?」
「してみたいってか、お前と一緒にしてやってもいいっていうか…」
「んー、でも全員一緒にするの、危ないらしいし…」

グリーンの下心に気付かず真剣に悩むリーフと、不順な動悸にごにょごにょと口ごもるグリーン。
わかりやすいなあ。
まあ、しょうがないか。
このまま僕もグリーンもしてみたい!と言い続ければ、リーフが待機役に買って出るかもしれない。
男2人でそんなむさいことしてもつまらないし、グリーンの怖がって怯える姿も見てみたいし、ここは代わってあげようかな。

「いいよ」
「え?」
「僕、待機役でいい。グリーンとリーフでしてみて」
「でも、レッドくんもしてみたいんじゃ…」
「僕は興味が有るだけで、実行してみたいわけじゃない…。実は、ユウレイ見たことあるし、今回はグリーンに譲る」
「え、レッドくんユウレイ見たことあるの!?」
「うん、旅の途中、シオンタウンでちょっと。この話しは、また今度してあげる」
「わあ、ありがと!」
「とりあえず、ひとりかくれんぼの配役はそれでいいよね、グリーン」
「お、おう。ったく、しょうがねえな!」
「…だから、リーフの身に何かあったら、僕がすぐ助ける。安心して」
「うん、ありがとうレッドくん!」
「別に」

にこりと笑顔になったリーフを見て満足。
グリーンが悔しそうな顔をしていてさらに満足。
うん、美味しいポジションだ。

「で、リーフ。どうやってするんだよ、そのひとりかくれんぼ!」
「あ、そうだった。このページに詳しく書いてあるんだけどね」




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