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「はぁ、よく食った」
「すごく美味しかった」
「ふふ、2人ともありがとう。お粗末さまでした」

にこり、と嬉しそうに笑ってリーフが席を立つ。
思っていた異常にお腹が空いていたようで、食べ始めた僕たちはおかわり合戦だった。
結局、5合炊いていたお米すべてを食べ尽くしていた。

「1日分食ったぜ」
「うん、僕も…」

はちきれんばかりのお腹をさすりながら、ゴロンと横になる。
またリーフに起こられるかと思ったが、大丈夫だった。
彼女も僕たちと一緒に横になった。

「2人とも、ありがとうね。やっぱりこういうこと、興味半分でするものじゃないなって体感した」
「だな、俺もいい勉強になった」
「僕も。きっと、ああいうのには、自分から関わっていくべきじゃないんだ」

つい数十時間前のことなのに、どこか昔のことのように話す。
なんというか、ただ怖かったことだけが思い出された。
こういう日常を感じると、一番ホットする。

「…あ、レッドくん襟元。食べこぼし付いちゃってるよ?」
「ホントだ、レッドだっせー」
「グリーンうざい、…ちょっと僕着替えてくる」

グリーンの野次を一蹴して起き上がる。
サラダのドレッシングが飛んだみたいだ。
自室に入ってクローゼットを開ける。
ここで、あんな恐ろしいことがあったのに、なんとなく実感がわかない。
ずっと懐中電灯の明かりだけを便りに、暗闇の中にいたせいかもしれない。
明るいと、こうも安心感があるものなのか。

「っ!?」

とにかくパーカーにでも着替えようと、掛けてある服をめくっていて息を呑んだ。

ストン、と包丁が落ちてきたのだ。
その包丁は床に弾かれ、カランという音と共に僕の足の数センチ先に転がった。
なんで、なんでこんなところに包丁があるんだ。
見ればそれは、なくなっていた包丁だった。

嫌だなあ、と思いながらも、恐る恐る拾い上げようとしゃがんで、もっと見たくないものが見えた。
その包丁の先には、置いてあるリュックの影にひっそりと隠れるかの如く、紫色のあの人形が座っていたのだ。

「なっ…」

思わず言葉を失って、その人形を見つめる。
まさか、また動いたりなんてしないよな。
しばらくじっと様子を観察してみるも、どうやら何事もないようだ。
かくれんぼは無事に終れていたらしい。

「脅かすなよ…?」

わざと声に出してそう言って、恐る恐る人形に手を伸ばす。
…大丈夫、動かなかった。
ほう、と息を吐いて今度は包丁を拾い、部屋を後にする。

「グリーン、リーフ。見つけた」
「あ、その人形…!」
「包丁と一緒にクローゼットの上から落ちてきた」
「え、レッドくん大丈夫なの?」
「うん、びっくりしたけど怪我はなかった」
「…あとは使った人形をちゃんと燃やして供養するだけだな」
「うん」



その次の日。
僕たちは使った人形たちを燃やした。
炎に包まれる7つの人形たちの姿はあまりに異様だった。
特に、リーフの使った紫色の人形は、中のほうがまだ湿っていたのか長い間炎に包まれながら形をかたどっていた。
じっと、こっちを見るように座った体制のまま。



燃え尽きた人形の灰を処理し、それぞれの家へと戻る。

「結局、ひとりかくれんぼって何だったんだろうな」
「…実は、それについていろいろ調べてみたんだ」
「なんだったの?」
「もともと、ひとりかくれんぼは他人を呪うための呪術のひとつだったらしい」
「…つまり?」
「仮に呪いたい相手の名前をAとすると、本来は人形の中に呪いたい相手の髪や爪を入れて、かくれんぼを行うんだ。そして、最後に『次はAがかくれんぼ』と言って自分はかくれんぼを終える。そしたら、昨日グリーンと僕でやった時みたいに、Aのところに霊体が移るだろ?でも、Aはかくれんぼなんてしてないから、すぐに霊体に見つかって呪い殺される…ってこと」
「…だから『いちぬけ』とか『鬼ごっこ』があったのか」
「たぶんね。ひとりかくれんぼが呪いとして効力を発揮しないのは、呪う相手…つまり人形に入っている爪が自分であることと、最後に自分がかくれんぼの勝者になって終わっているからだ」
「そっか、だからちゃんとかくれんぼを終えていなかったり、手順を間違えて呪術が自分に跳ね返ってきてる状態になった時だけ、何か被害にあってるのね」
「うん。…今回僕たちがあんな体験をしたのは、自分以外の呪いの対象者たりうる存在が、それぞれおなじ家にいたからだと思う。実際、同居人がいる場合は隠れていない同居人に被害が及んでいるし」
「…ごめんね、気軽に心霊体験出来るだなんて、遊び半分でやっちゃって」
「リーフは悪くねえって。幸い怪我人も出てねえし。俺たちも悪ノリしたもんな、レッド」
「うん、気にしない出。…これから、こういうことしなければいい」
「…そうだね、ありがとう、2人とも!じゃあ、わたしコッチだから」
「送ってくよ」
「平気だよ?」
「いーから黙って送られろ」
「ふふ、はぁい。ありがとう。じゃあスーパー寄って、今日はわたしの家で食べる?」
「お、それいいな!」
「僕オムライスがいい。ピカチュウの」
「また難しそうなのリクエストしたな」
「出来る?」
「んー。が、がんばる」

ははっ、と笑いながら歩く。
買い物をして、彼女の家にお邪魔する。

「…あれ?」
「どうした、リーフ」

玄関の鍵を開け、ドアを開けたリーフが固まる。
動かない彼女の原因を探るべく、ひょこりと中を覗いた。

「ぬいぐるみ…?」
「……………」
「何だ、俺にも見せろよ」

リーフは口を開かない。
グリーンが玄関のドアを全開にして、電気を付けてその理由が分かった。

「…これ、ジュペッタ?」

入り口に、ぽつん と座っているジュペッタは、じっとリーフを見つめている。
まるで、つい数時間前に燃やしたあの人形のように、じっと。

その視線を受けて動けないでいると、ジュペッタが、あの人形のようにふわりと浮いた。
そしてシシシと笑って、リーフの持っていた空のモンスターボールに自ら入った。

「…………」

突然のことに驚いて、沈黙が続く。
ボールに入ったってことは野生のジュペッタ?
ゴーストタイプだから入ってこれたのか?
でもなんてリーフの家に?
それにさっきの姿は、まるで…。
色んなことが脳内をかけめぐる中、リーフがふふふと笑った。

「きっと、この子 かぷりこの生まれ変わりなんだよ。可哀相なことしちゃったもん、今度はちゃんと大事に大事に育てるからね」

その後、逃したほうがいいというグリーンと、頑なに拒むリーフが一悶着した後、最終的にジュペッタはリーフの仲間になることになった。

それから数ヶ月経った今も、リーフはジュペッタと仲良く過ごしている。
特に体調を崩したりなんてこともなく、3人ともこれまで通りの生活をしていた。
そしてまた僕たちは、いつかのカフェで雑談を楽しんでいた。

「そういえば、相変わらずジュペッタとは仲良しなんだって?」
「うん!バトルもとっても強いし、いいこだよ!」
「お前も懲りねえよなあ。…ま、お前が幸せならそれでいいけどさ」
「グリーンってばまだ言ってる。意固地」
「だってどう考えても明らかに関係あるだろ」
「グリーンって意外と迷信深いよね」
「ふふ、心配してくれてありがとう」

そんな彼の様子をにこにこと楽しむリーフ。
正直僕も、最初あのジュペッタには警戒していたけれど。
何の事はない、今じゃリーフの1番の仲良しだ。

「あっ」
「どうしたの、リーフ」
「うん…」

しかし不意に、何かを思い出したかのようにリーフの表情が暗くなった。


「でもね、たまに怖いの。夜中にぱって目が覚める事が最近よくあって、その度にジュペッタがこっちをじーっと見てるのよ。…まるでこの子に、見張られているみたい」


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