二〇二一年四月から執筆を始めた『空海月』、計八十一話で一旦区切りとなります。
 第一部(と勝手に呼んでいます)を終えた今、あとがきと言うには短いですがほんの少し感想と第二部について書き残しておきたいと思います。
 大したことは書いていませんので、もちろん目を通さず第二部を待っていただいても何の問題もありません。

 どこかでポロッと話していたかもしれませんが、『空海月』はもともと日番谷十番隊、もしくは最初から東仙九番隊で斬魄刀と死神としての在り方に問題を抱えた夢主がふわふわ漂うように働いて生きてたまに転んで、でも周りに何とか助けられながら下手なりに生きている、みたいな話を構想していました。
 日番谷十番隊の席官なら乱菊さんに奢らされて「あの時のお金? やだ〜もう返してますよ、忘れちゃったんですか〜?」「踏み倒すな松本ォ!!」みたいな騒がしく楽しい日常があったかもしれません。東仙九番隊スタートなら、きっともう少しシリアス多めの暗い話になっていたかもしれません。ちなみに乱菊さんに借金を踏み倒される話は第二部のどこかで書こうと思っています。
 それがどうして十二番隊所属になったのかと訊かれると、「これです!」と自信を持って語れる理由は実は無かったりします。私が十二番隊推しだし……くらいでしょうか(笑)
 とは言え、実際書き始めてみたら人として欠陥ありまくりの浦原隊長とマユリ様に夢主を加えて人でなし三人衆がいい感じにはまりまして、殺伐とまではいかないけど仲が良いとも言えない大人達の背中を時々ひよ里ちゃんに蹴っ飛ばしてもらいながら書き進めることが出来ました。

 百年前の浦原十二番隊結成から技術開発局創設まで、『空海月』の設定や描写はほぼ百パーセント妄想と捏造で出来ていると言っても過言ではないですが、日常描写やキャラの動きに好評をいただくことが多かったのが意外でした。
 個人的には時灘登場回ではいつも頭を抱えて苦しんでいたので、第二部以降の悩みの種をどうしようかと今から恐々しています。あの男を完全に理解するのは私の平凡な頭では不可能だと思うので、どうにかそれっぽく見えていれば幸いです。

 第一部を終えた今、恐らく皆さんが一番気にされているのは夢主と涅さんの関係についてだと思います。
 というか頂く感想もほとんど全てに右腕左腕コンビについて言及して頂いていて、私が思っている以上にあの二人の関係性を大事に読んで下さっていることを痛感しました。本当にありがとうございます。
 夢主と涅さんの関係性を一言で言い表すことは出来ないと思います。信頼や友情があるのかと訊かれれば微妙ですし、愛という言葉に収めるにはエゴイスティックで暴力的です。本人達が何より否定しそうですし。二人がそれぞれ自分として生きていく以上、わかり合うことも手を繋ぐことも出来ないんじゃないでしょうか。

 そういうわけで、結局お互いの自我が強すぎていびつな絆が形や名前を持つことはありませんでした。ですので二人の間にあるものは皆さんのなかで自由に名前をつけていただければと思います。
 私も私で「これがうちのヘッドカノンじゃ!!」と捻じれた恋愛をしている二人を書いてみたり「いやいやこれは恋じゃないよ」とわかり合えないいつも通りの二人を書いてみたりします。私が書いているからと言ってそれが正解ではないので……。


 第二部ではようやく予告通りに九番隊で檜佐木と邂逅します。
 過去の幸福以外はすべてがどうでもよくなってしまった捨て身スタイルに、収まったように見える自殺願望マシマシの夢主が九番隊でどういう答えに辿り着くのか、ゆるく見守っていただけますと幸いです。
 原作の時間軸に少しずつ近付くにつれ、登場する原作キャラクターも増えていくと思います。そろそろ檜佐木だけじゃなく恋次や雛森、吉良なんかも出せたら……。

 全てが終わってしまった箱庭から飛び出した夢主を追いかけて、檜佐木は暗い海底に飛び込んでくれるのか。果たして涅さんの出番はあるのか(!?)
 のんびり更新していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。


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