私を化石にするひと
《おはよー!》《もう学校ついた?》
《俺は朝練終わったッス!》
《今日も笠松センパイキビシかった〜》
《数学の小テスト点数良かった!》
《なまえが教えてくれたおかげッスね(о´∀`о)》
《おーい》
《お喋りしよーよー(´・ω・`)》
《反応ほしいッス…》
《なんで既読もつかないの?》
《なまえ?》
「ハハハ、相変わらずキセリョこわ〜」
「そうかな、もういつものことだし」
「朝から昼までで通知99超えはヤバイ」
「連絡がマメなんだよ」
「ポジティブか」
私のスマホ画面を見てうんざりした顔のゆなちゃんとお弁当のおかずを交換した。
とりあえず黄瀬くんの要求通りに既読はつけたので、あとは返信をどうしようかと悩み始めて5分が経過している。
「大体さあ、そうなるってわかってるんだからなまえもこまめに見ればいいじゃん」
「頻繁にスマホを見る習慣がない」
「でもさあ、放っといたらどうせ………」
ゆなちゃんの言葉を遮るように教室のドアが荒々しく開けられた。
視線を向けた先で、涙目の黄瀬くんがコンビニの袋を持ってこちらをガン見している。
手を振って視線に応えると、文字通り飛ぶように黄瀬くんが適当に近くの椅子を持って駆け寄って来た。
「ほら本人が発信されてくるじゃん〜」
「ゆなちゃんさんなんか言ったッスか!?」
「いやなんも」
黄瀬くんの勢いはすごい。
いつものことながら、昼休みになると嵐のように突撃してくるし、そうじゃない時も空き時間さえあれば私のところに来る。
学校の人気者で、大体なんでもできて、キラキラしている黄瀬くんが、そんな男の子が私のところに来るのはいつも不思議だなあ、と思っている。
「なまえなんで既読無視するんスか〜ブロークンハートッスよぉ悲しくて授業どころじゃなかったんスよ〜〜〜あとお昼一緒に食べよ」
「ごめんごめん。みんなで食べよ」
「キセリョの10の問いかけに対して返答1じゃん」
「何言ってんすか! なまえの1は尊い1なんスよ」
「ごめんもう勝手にやっててくれ、理解できん」
私は黄瀬くんが今日も元気に騒がしいだけでなんだか良かったなあと思うけれど、どうもゆなちゃんはそうではないらしい。私のお弁当箱から勝手に好きなものを摘まんで持っていく黄瀬くんを見てうんざりした顔をしている。
持っていかれたタコさんウィンナーの代わりにサンドウィッチを一口もらった。
「なまえは俺がそばにいない時寂しいと思わないんスか!?」
「寂しいとは思わないな」
「思わないの? なんで!?」
「う〜ん…」
なんでと言われても、寂しいと思う前に黄瀬くんから連絡が来てしまうからそんなことを思う暇もないというか……。そもそもそんなに私は会わなくても平気というか。
でもそういうことを言ったら多分黄瀬くんは拗ねてしまうから、時には上手く誤魔化す技能も必要になる。
「……黄瀬くんがまめに連絡くれるから、おかげで全然寂しくない、みたいな」
「………しゅき…………」
「うわ、モデルにあるまじきしわくちゃ顔」
「こういう表情も味があっていいよね」
「ごめんまったくわからない」
黄瀬くんはしわしわ顔のまま「ちょっと耐えられないから飲み物買うついでに走ってくるッス……」と言い残して教室を去っていった。
「……黄瀬めっちゃなまえのこと好きじゃん。なんで付き合わないの?」
「え? 付き合ってるよ?」
「は?」
「うん?」
ゆなちゃんはしばらく私の顔を凝視して、そして深い溜め息を吐いて机に突っ伏した。
「………付き合ってんの? いつから?」
「結構前から」
「………そりゃアンタ、こんだけ彼女がふわふわしてたら心配で通うわ」
「ふわふわしてる?」
「してるしてる。別に1日顔合わせなくても平気とか言われたらそりゃ心配にもなる」
(title by 天文学)