実家に帰らせていただきます

「うっうっ、もう弔くんなんて、弔くん、なんて、知らない!」

ぽかん、と口を開けた弔くんが何も言わずにわたしを見ている。
溢れそうな涙を乱雑に手で拭って、息を荒げていつもより小さく丸くなった赤い目を睨みつけた。
本日は溜めに溜めた思いの丈を吐き出させていただきます。

「弔くんいつも私の話聞いてくれない!あんなに怪我するのは仕方ないけど隠さないでって言ったのに普通になかったことにするしどこか致命的な怪我でぽっくり死んじゃってもおんなじお墓入ってあげない!カウンターで寝ないでちゃんとお布団入ってって言っても空返事で結局お布団入るの月一程度だしそんな不健康な生活して早死しそうな人の後は絶対追いたくない!わたし長生きしたいもん!ご飯作っても食べたいものあるくせに何でもいいとか言うからいつもわたし弔くんに食べたいもの作ってあげられないし、わたしはぜんぶぜんぶ弔くんに話してるのに弔くん食べたいご飯も教えてくれない!別にオムライスって言ったからって笑わないしわたしもオムライス好きだし!嫌いな食べ物だって弔くんが好きなら弔くんごと好きになるし!ここにいてって弔くんが言ったのにもうわたしがどこにいても何してても全然知らんぷりしてわたしがまるでいないみたいにするし、なんか女の子連れて帰ってくるし、あの金髪の子なんなの!?かわいいよね!!この浮気者!!結局弔くんも膝上スカートの方がいいんだ!膝下守れって言ったのも弔くんなのに!わたしが近付いたらその分逃げるしいっつもわたしが行く時にいなくなるしわたしのことヒーローか何かだと勘違いしてるの!?残念でしたあわたしは弔くんのせいで犯罪者ですうおかげさまで安心して表通り歩けませーん!!昼間はわたしから逃げるくせにわたしが布団入ったら一緒に寝るわけでもないのに枕元で顔ガン見するのもやめてよ、寝てると思ってるのかもしれないけどあれだけ存在感あったら寝られないからね!布団入ればいいじゃんなんでそこで一緒に寝てくれないの!?たまに一日中ベタベタする時もあるけどその日に集中しないで毎日適度な距離を保って好きでいれば良くないですか!?なんで一日に収めようとするの、わたしは毎日好きって言ってるのに、なんで弔くん言ってくれないのにわたしにばっかり好きって言わせるの、しかも無視するし!わたしがずっと放っておいても弔くんのこと好きだと思った!?残念弔くんのことはずっと好きだけど傷付くんだよ人間だから!!あとわたしは別に声掛けてきた知らない男の人の指とか足とかバラバラな部位だけ持ってこられても嬉しくないから!そんなもの持って帰ってくるくらいならお花とか持ってきてくれた方が断然嬉しいし好感度爆上がりだよ!!もう結婚待った無しだよ!!普通バラバラ死体持ってきたら離婚秒読みだからね!?結婚もしてないのに離婚とかどういうことなのかさっぱりだよ!!
悪い人だってなんだってわたしはもう弔くん大好きなのになんで全部全部知らんぷりするのー!!うえーん!!」

カウンターからずり落ちそうになっている弔くんに結婚もしていないのに離婚届けを押し付けて、中身の少ない鞄を持って息を吐いた。目頭が熱くて前がよく見えないや。

「だから実家に帰らせていただきます!もう弔くんの顔1週間くらい見たくない!」
「………」
「…なんでなにも言わないの」
「………嘘だろ」
「何に対しての嘘だろなの、わたし帰るよ」
「なまえがいなくなったら、俺、俺はどうしたらいいんだよ」
「知らないよ。わたしが何聞いたって弔くん何も答えてくれなかったじゃん。だからわたしも知らない」

弔くんと同じようにぽかんと(顔は靄だけど)していた黒霧さんにお世話になりましたと頭を下げて出口に向かう。もうこりごりだ。
腰にひっついて離れない弔くんを引き摺っていつもの4分の1倍速くらいで出口を目指していく。
弔くんとはもうやっていけない。好きだけど。好きだけど(大切なことだから2回確認したよ)!!



「ねえ聞きました!?なまえちゃんわたしのこと可愛いって!!」
「うるせえな。泥棒猫扱いじゃねえか」
「わたしは弔くんとなまえちゃんだったらなまえちゃんとお出かけしたいです。わたしにも選ぶ権利はあります」
「そうだな…皆選ぶ権利はあるな…」
「荼毘くん目が遠くなってますよ?」
「壮絶な夫婦喧嘩で目がやられた」

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