時が二人を分かつまで

びゅうびゅうと風が吹き付ける。春なのにとても寒い。
今日は特に風の強い日で、こういうのを春一番と呼ぶのだな、と実感した。

風に髪を乱されて目を瞑って歩く私とは違い、携帯を見ながら少し前を歩く財前を恨めしく思いながら、ひたすらに河川敷を歩く。
本当なら今日の今頃は友達と温かいカフェの中でお喋りをしながらゆっくりと時間を過ごしていたはずだったというのに。

「…財前のばーか」
「なんか言ったか?」
「…別に何も」

財前がどうしても私と行きたいというから、仕方なく海外の吹奏楽団のコンサートについて行った。
確かに私も音楽は嫌いではないし、今日はまぁまぁ楽しい時間を過ごせたと思う。しかし何もわざわざ用事のある私を誘わずとも良かったのではないだろうか。
どうせこいつなら1人なんて気にしないだろうし、他にも誘う人はいたはずだ。

「…寒い」

マフラーに顎を埋めて乱れる髪を押さえて立ち止ると、律儀に財前も立ち止ってこちらを振り返った。
寒さで真っ赤になっている耳を見て、流石に財前も人の子か、と思う。

「…ん」
「…なに?」
「…手ぇ出せ言うとるんや」
「なんで」
「…ええから手ぇ出せ」

寒いというのにこの男は何を言っているのだろうか。
渋々コートのポケットから右手を出すと、財前は私の手を左手で包むとしっかりと握って再び歩き出した。
財前は歩くのが早いので、私は自然とその速さに合わせることになる。

「…寒いんだけど」
「なんや、手ぇ繋ぐの嫌か?」
「そうじゃないけど、寒い」
「小学校の時も手ぇ繋いで帰っとったやろ」
「そう、だけどさ…」

財前と私は親が幼馴染ということもあって小さい頃から一緒に公園を駆け回る仲だった。
私の方は母親が広島出身なので標準語だが、一応はれっきとした関西人である。
中学校に上がるとぱたりとスキンシップは減ったが、こうして2人の時は財前の方からスキンシップを求めてきたりと、それなりに仲は良い。

「俺が放すまで、手ぇ放すなよ」
「…うん。どっちかが放すまで、繋いでいようね」
「当たり前や。その言葉忘れんなよ」

びゅうびゅうと風が吹き付ける。
とても寒かったけれど、財前と繋いでいる手だけは、温かかった気がした。

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