某ヒーローは考える

「はーい、そこは右じゃなくて左に進んで下
さいねー!止まらないでー!でも押さないでー!」

一等高いビルの上から煙の上がる街並みを見下ろす。付近では未だに敵が暴れているらしく、時折爆発音と怒鳴り声が小さく聞こえる。
ヒーローとして事務所を持つようになってからしばらく経つけれど、こんなに大きな人的災害は久し振りかもしれない。被害範囲が広いおかげで避難誘導も一苦労だ。テトリスか何かをやっている気分である。

「車は置いていってくださーい!避難の邪魔でーす!そこー!!どさくさに紛れて信号無視すんな!!」

私の個性は"拡声"。自分の喉はもちろん、触れたものはその用途に限らず大体拡声器の機能を持たせられる。ヒーロー名はコンダクター。
今私はビルに立ちながら近くの電柱を掴んで避難誘導を行なっている。電線で繋がっているから、その範囲内なら全ての電柱を拡声器代わりに出来る。

「近況を繰り返します、ただ今西区にてヒーローと敵が交戦中です。すんごい爆発してて危ないので、一般市民の方々は西区には近付かないようにしてください」

繰り返します、と私が言うのと、「うるせぇええええ!!!」という怒鳴り声が爆発音と共に私の横を通り抜けたのはほとんど同時だった。
振り返ると、屋上を削るようにして止まったヒーローが瓦礫の中に埋まっている。

「な、何やってんの爆心地…」
「っるせえ!!ちょっと食らっただけだわ!!テメェ繰り返す暇あったらさっさと一般人退避させろや!!!」
「んだとコラ!じゃあもっと被害抑えて戦ってよ!!あんたが景気良く建物壊すせいでどんどん避難経路なくなってるんだって!!もっと静かに戦えないの!?」

あそこの道路にクレーターが出来なければ、多くの人がもっと大きな通りから迅速に逃げられた。
最近デビューした新人ヒーロー爆心地は、私の言葉に瞳孔が開き切った目を更に小さくして私に怒鳴る。

「出来るわンなもん上等だオラ!!テメェ後でぶっ殺す!!」
「じゃあやって下さい〜、何事も有言実行が大事です〜」
「クソ死ね!!!」
「ごぉめんて〜」

爆心地は再び轟音のする方へ飛んで行った。
爆心地って、仕事は出来るし人気もあるけど口が悪いんだよなあ。
被害の大きいところに出動することが多い私と遭遇することが多い爆心地は、絶対に活動姿勢を考え直した方がいいと思う。どう考えたっておかしい。
そのことを伝えようとしても、爆心地は私の顔を見るたびに怒るから、会話らしい会話になったことはないのだけど。

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