それじゃ遠慮なく

ライトブラウンの髪が頬を掠めていくから、くすぐったくて身動ぎした。それだけでびくりと肩を震わせた振動が伝わって来るのだから、彼は多分相当私の挙動一つ一つに怯えている。ならくっつかなきゃいいのに。
かれこれ三十分前から、ルーピンは私の背後から私の読む本を眺めている。
気を抜くとすぐに首に回った腕が締まるから、数分おきに身動ぎをしている。お陰で全く本の内容がわからない。

「…ルーピン、これが読みたいならくっつかなくても君に譲るよ」
「え?ううん、僕は別にいいよ」
「…ふうん」
「あ、僕がそばにいるのが嫌だった?ごめん、…ごめんね、あっち行ってるね」
「いや、別に嫌とかじゃないから、いていいから」

抱き付くのは平気なのにどうしてそうも悲観的なんだ。まだ私何も言ってないだろ。

「…そんな後ろから見てないで、横に来ればいいじゃん」
「?」
「だから、隣座ったらって」
「い、いいの?」
「逆に駄目なの?」
「う、ううん、すごい良いと思う」

さっきまで私に抱き付いていたくせに、恐る恐るといった感じでルーピンは私の隣に腰を下ろした。心なしかさっきまでよりも表情が堅い。嫌われてるのかな。

「…ルーピン、私のこと嫌いなの?」
「な、何で!?僕が、君を!?」
「うん。全然目合わないし、私の顔見たくないのかなって」
「き、嫌いなんかじゃないよ!!むしろ、僕がそばにいて君は不愉快じゃないの?」
「…ん〜〜」

なるほどじれったい。私はまどろっこしいのが一番嫌いなのだ。

「普通友達が隣にいて不愉快になんてならないし、強いて言うならその悲観的な感じが不愉快だな」
「ご、ごめん…や、やっぱり僕、あっち行ってるよ」
「何で?それが嫌なんだって。逃げないでよ、ルーピン」
「に、逃げてなんか、ないよ…」
「嘘だ。私が君の顔見るとすぐ逃げるんだよ、リーマス」
「な、なまえ…」
「足が逃げてるよリーマス」

逃げ腰になったルーピンの足を自分の足で挟んで逃げられないようにしてやる。少しはしたないけど、これぐらいしないとルーピンは逃げてしまうだろう。
真っ赤なんだか真っ青なんだかわからない顔で私を見つめるルーピンの手を、本を持っているのと反対の手で掴む。これなら力の差を考えても流石に逃げられまい。

「謙虚なのはいいけど、リーマスのは卑屈の域入ってるよ。私は普通にリーマスのこと好きなんだから、自分だけ気持ち押し付けて逃げないで。ちゃんと私のも受け取ってよ」
「……なまえ、僕のこと嫌いじゃないの?」
「うん、嫌いになる理由ないよ」
「…そばにいてもいいの?」
「好きなだけどうぞ」
「…本当に?…本当にいいの?」
「いいよ。とりあえず、今度からは後ろじゃなくて横にいてね」

ルーピンの顔が真っ赤になった。嬉しそうにはにかみながら、解いた私の手に指を重ねる。
とりあえず、ちゃんと顔を見て話せるようになったのはいいことだ。意外と目を合わせてもらえないのは気分が悪かったのだ。

「僕、なまえとこうやって並んで座るの、夢だったんだ!」
「手軽な夢だね。叶ってよかった」
「へへへ、…僕もう逃げないよ、だから、なまえも逃げないでね」
「私は逃げたことないでしょ」
「もう、我慢しないからね」

…ん?

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