俺に向く矢印は全て折る、異論は認めない

あ…ありのまま俺に起こったことを話すぜ!
現役男子高校生だった俺は、周囲にはひた隠しにしていたが腐男子だった。俺自身は普通に女の子が好きだが、二次元に限りホモが好きだった。顔が綺麗なキャラ同士でないと俺は受け付けないから、ホモなんて二次元で充分なんだ。
顔が綺麗なら何でも良かったから雑食に色々漁って見て萌える生活を続けていた俺だったが、気が付いたら俺が二次元になっていた。
な…何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何が起こったのかわからなかった…。痛い妄想だとか釣りだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ。もっとおそろしいものの鱗片を味わったぜ…。

と一時期ポルナレフ状態に陥っていた俺だったが、状況を整理すると俺はトリップをしていた。こわい。
部屋も親も何もかもが変わらないのに、家から一歩外に出てみると街並みは違うわ住所は聞いたことないわお向かいさんはFBIだわで全てを悟った。最後とても重要。
極め付けはコミュ障、人見知り、ビビりの三拍子が揃ってる俺がなけなしの勇気を振り絞って家から出たら秒で事件が起きたことだよね。
ここってもしかして名探偵のうさみちゃんじゃない方の、コナン=サンの世界じゃんね…!!!
流石に驚きと恐怖のあまり真っ青になって見知らぬ通行人の人に心配された。


まぁそこまでなら最悪にしてもまだギリギリ俺の処理容量の範囲内だった。ギリギリね。
ここでお向かいの某FBIのシルバーほにゃららさんが重要になってくる。
俺は一方的にあの人の正体も知っているしあの人と某公安の姫とくっつけてぐへぐへしたりもした。緋色シリーズDVDも買う程度には緋色組好きだった。
でもさ、俺ってば、本当にコミュ障極めてる陰キャのゴミ系男子だから。
正直液晶の向こうだと「スパダリ!抱いて!!安室さんを!!!」って叫んでたのにリアルに会うと怖くてしゃーない。例えあの優しげと称される沖矢さんの姿でも怖すぎて会話も侭ならない。目線はモロ泳ぐ。
しかもあの人お裾分けとか言って飯持ってくるしやたら俺のこと気にしてるから怖さ倍増。今なら俺絶対沖矢さんを警戒する哀ちゃんの味方する。微笑み怖すぎ。
沖矢さんでも赤井さんでも何でもいいから勝手に安室さんなり降谷さんなりとホモホモしててほしい。俺別にホモじゃないし夢男子じゃないから巻き込まないで下さい。
もう恐怖が液晶の向こうの好感度を余裕で上回りそうだから。本当勘弁して下さい。

「なまえー!ちょっと降りてらっしゃい!」

アッ嫌な予感ってか悪寒が止まらない。母上からの召喚は十割沖矢氏の訪問時だって決まってる。だってあの人俺のこと探すもの!!!怖すぎかよ!!!!
でも行かないとね、あの、うん、盗聴器増えるから、ね。
気付いたら見知らぬコンセントのタップ増えてた。真実はコナン=サン曰く一つらしいし考えなくてもわかるけど抜くのはやめた。また仕掛け直されるのがオチだろうなって…。
お陰でいつも音に気を遣って生活してます。CDは全部イヤホン装備で音漏れ確認してから聴いてます。
ていうか生活音全然しないと思うから盗聴器すごく無駄だと思うんだよな。哀ちゃんと違って俺学校以外だと半年に一回外出ればいい方だし。

「なまえー!?」

待って今行くから怒らないで母上、沖矢さん怖いだけで死にそうなのに更に俺の胃に負担を掛けてどうするの、俺なんかした?
仕方なしに震える足を押さえつけて階段をゆっくり降りて行くと、笑顔の母とこれまた笑顔の沖矢さんがいた。ほんっっっと怖すぎ。

「またお裾分け貰っちゃったのよ、シチューだって。沖矢さんあんたのことも心配してくれてんのよ、挨拶くらいしなさい」
「えっ…あっ、えぇ……………はぃ……」
「じゃ、母さんシチュー閉まってくるから」

待って!!!シチューと息子どっちが大事なの!!??ねぇ母上!!!!????

「良かった、元気そうですね。すいません、わざわざ降りてきて貰って」
「アッ……はぃ……こ、…………こんちは……」
「はい、こんにちは」

この人ね!こうやって俺の亀もキレ出すような低速コミュ障トークにも怒んないでついてくんの!!逆に怖くね!!??
目は泳ぐわ手汗はすごいわ足は震えるわで本当に意識飛びそうなくらい怖い。助けてドラえもん!!

「…すいません、また無理をさせてしまったようですね。ですが、どうしても君の顔が見たくて」
「…はっ………ぇ、あ、……は、い…?」
「私が怖いのは充分伝わっています。もう、私が会いにくるのはこれで最後にしようと思うんです」
「…え、……はぁ………」

え、沖矢さんもう来ないの?マジで?いいの?そんな簡単に俺解放されていいの?神?
はっとして顔を上げると、伸びきった前髪の隙間から緑色の瞳と視線がかち合った。……緑色。緑色?

「これからは、俺で会いに行くことにする」

親の声より聞いたかもしれない某赤いシャアさんの声が聞こえたと思ったら、肩を掴まれて壁に追いやられていた。
突然過ぎて恐怖も湧かずに呆然としている俺の顎を掴んで、沖矢さん、基赤井さんは俺の耳元に口を寄せる。

「怯えた表情も悪くはないが、そろそろ笑った顔も見たいな、…なまえ?」
「…、ぃ………!?、!?」
「そう怯えてくれるな。お前を傷付けようなんてこれっぽっちも思ってはいない」

そう言うと、赤井さんは俺の頬に一つ唇を落とすと満足げに離れていった。

「その内俺のところに自らやってきてくれたら嬉しいんだがね」

既に沖矢さんの声に戻っていた赤井さんは、「それでは失礼します」なんて言って家に帰っていった。
俺はと言うと、あまりの出来事に口をぽっかりと開けたままずるずると壁伝いに座り込んだ。
なんかもう、怖いとかすごいとかそう言うの通り越して、驚きっていうか。

「………お前、ホモかよ…………他所でやってよ…」

もっと手頃なのいるだろ、安室さんとか安室さんとか安室さんとか!!!
何で俺がホモの餌食、いうか赤井さんホモ?現実?マジで?俺これからどうすればいいの?盗聴器外すべき?

- ナノ -