緑の瞳の猫を飼っている
うちは猫を一匹飼っている。緑の瞳が綺麗な黒猫なのだけれど、気難しくて中々人には懐かない。目つきも鋭くて、その上自己主張をあまりしないから、猫同士で喧嘩なんかしていないか毎日心配だ。
元々実家で飼っていたのだけれど、私が家を出て一人暮らしをする時に親に「あんまり気難しくて相手が出来ないから連れてけ」と言われてしまって。
もしかしたら仲の良い猫なんかもいたかもしれないのに、ここまで連れてきてしまって大丈夫だったのだろうか。
何だか最近よく怪我をしてくるし、もしかしていじめられたりしているのだろうか。
「ひえぇ……」
「どうした」
「な、なんでもない」
じっと探るようにこちらを見つめる深緑の瞳に苦笑いしながら、黒く艶やかな毛並みの耳の付け根を掻いてやる。
途端に目を細めて私の手を甘受してくれる辺り、嫌われてはいないのだろうけど。
「ねぇしゅう、何か困ったことはない?」
「困ったこととは」
「うーん、なんでもいいんだけど。こっちに来てから色々変わったでしょ。何か困ったことあったら嫌だなーって」
「特にない」
「そ、そう…」
しゅうが私の膝に頭を乗せて来たので、耳から手を離して喉を撫でてやる。ごろごろと低く喉を鳴らしたしゅうの頬には、つい最近出来たと思われる引っ掻き傷がある。
言わないだけで、もしかしたら何かあったりして…急に大怪我をして帰って来たりなんかしたら……ひえぇぇ…。
「…強いて言うなら」
「ん?」
「引っ越してから帰りが遅くなったな」
「あー、まぁ、…そうね」
「……」
しゅうが上半身を起こして、私とソファの間に身を滑らせた。私は今、しゅうの膝の上に乗る形で座っている。
しゅうはこれが好きらしいけど、私は恥ずかしいったらない。
そのまましゅうは無言で私の肩に噛み付いた。
「いた、いたい、いたいってばしゅう」
「……男でも出来たか」
「お、おとこ?」
「違うのか」
肩に歯を食い込ませたまましゅうが低く唸った。猫のくせに犬のようだ。
最近やたらにおいを嗅いでくると思ったらそういうことか…。
「男なんていないよ、仕事忙しくてそれどころじゃないし」
「…どうだかな」
「それに、私ってモテないし」
「……」
しゅうはじとりと私を睨みつけた。何か言いたいことがあるようだが、ここでわたしが口を開いてしまうとしゅうは不機嫌になってしまう。
「……まぁ、番犬をしてやるのも悪くはないか」
「番犬?猫なのに?」
「猫なのに、だ」
「しゅうが守ってくれるならすごく心強いね」
「…」
無言でまた噛まれた。甘噛みではあるけど、しゅうのは結構痛い。