転身願望

※女体化


私の親友新開隼人ちゃんは、男になりたいらしい。
頻繁にその呟きを聞くことはないものの、その願いを口にする時の彼女の表情はいつも真剣だった。
そしてそれは、今日も同じで。

「あー男になりたいなぁ」
「またどうしたの」
「なまえちゃんが大好きなんだ、だから男になりたい」

新開ちゃんはいつもこう言うけれど、私は新開ちゃんが男の子だろうが女の子だろうが彼女のことが大好きだ。
そう言うと、新開ちゃんは少し困ったように笑う。

「俺にはなまえちゃんみたいな大きな好きがないからなぁ」
「なぁに、大きな好きって」
「なまえちゃんはさ、なんて言うか、俺の存在が好きだろ」

う、自惚れじゃなければ。と新開ちゃんは雪みたいに白い頬を真っ赤にして付け加えた。自惚れなんかじゃないから照れなくていいのに。

「俺もそうなんだけど、確かにそうなんだけどさ…」
「…どしたの」
「……っおれ、なまえちゃんのこと信用できてないのかなぁ……」
「あー待って、新開ちゃん泣かないでー」

新開ちゃんは大きな青い目からぽろぽろと涙を零した。照れたり泣いたり、新開ちゃんはとても忙しい。
ぐすぐすと鼻を鳴らす新開ちゃんにハンカチを差し出すと、それを受け取った新開ちゃんは私をじっと見つめた。

「…なまえちゃんが、いつか普通の男のことを好きになって、俺から離れちゃうんじゃないかなって、時々思うんだ」
「うんうん」
「だから、俺が背が高くて、かっこいい男になったら、なまえちゃんはずっと俺を好きなままでいてくれるかなって…」
「ははぁ」
「っおれ、おれ、なまえちゃんを独り占めしたくてっ…」
「うんうん」

新開ちゃんは案外嫉妬深い。
モデルさんみたいにスタイルが良くて、ぷっくりとした唇が可愛くて、なんでも美味しそうに食べてくれて、更に部活の自転車まで頑張っちゃうような新開ちゃんから逆に誰が離れると言うのか。
新開ちゃんは嫉妬深いし案外ネガティブなのに、それを相手に気を遣って言わないタイプだから、こうして今まで言いたいことを溜め込んできたのだろう。
…なんて言うか、本当に新開ちゃんは可愛い。

「新開ちゃん」
「……ん」
「私ね、多分新開ちゃんが思ってる以上に新開ちゃんのこと大好きだよ」
「…うん」
「新開ちゃんが嫌なら、頑張って他の人とはあんまり話さないようにするよ」
「…うん」
「何よりも新開ちゃんを優先するし…あ、そうだ、毎晩電話するよ。迷惑じゃなかったら、だけ」
「迷惑じゃない!全然、迷惑じゃない」
「お、おおう」

若干食い気味に返されたけど、新開ちゃんは顔を赤くして笑ってくれた。
うん、やっぱり美人さんは笑ってるのが一番だな、うんうん。

「男の子だって女の子だって、私は新開ちゃんが大好きだよ」
「…うん、俺も」
「私達、ずっと親友だもん」
「うん、大親友だ!」

あとね、新開ちゃん頬っぺたにクリーム付いてるよ。
こっそり耳打ちすると、新開ちゃんは何故か嬉しそうに笑いながら恥ずかしいな、と言った。

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