善意の災害

私の部屋は常時暗い。いつでも夜みたいな空間にいると、段々朝ってなんだっけとか思う。
昔はこれに加えて本とかペットボトルとか毛布とか、とにかく色々物が散乱していたけど、全部エミヤが片付けてくれた。
なんていうか、エミヤってお人好しで基本優しいけど善意が災害レベルだよね。物理で。
そこらへんに本投げといたら頭ぶっ叩かれてぼこぼこにされたからね。めっちゃ痛かったし正直泣いた。
暫くして我に返ったエミヤはぼこぼこ(物理)の私を見てすごく謝ってきたし手厚く看病してくれています。

「ああ、こんなに腫らして、痛そうだ、いや痛いだろう、痛々しいな」
「すごく痛い」
「そうだろうね、渾身の一撃だった」
「渾身の一撃」

現在進行形で。
私の頬に、それこそ美術品を扱うようにガーゼを貼っていくエミヤの手はすごく優しいけど、またいつ拳を作って私を殴るかわからない。
ママの怒りって怖い。今度からは本は本棚に戻すと誓う。

「すまない、こんなに君に傷を負わせるつもりはなかったんだが、どうも自制が出来なかった」
「いいよ別に、エミヤが災害レベルの世話焼きなのわかってるから」
「次は最小限に留める努力をしよう」
「次があるんですねエミヤさん」

痛む顔を最大限使って笑ってみせると、エミヤはきょとんとした顔で少し首を傾げてみせた。
白黒反転した目に見つめられると、なんだかそわそわしてしまう。

「君は私がいなければ駄目になってしまうだろう」
「えー、案外大丈夫だったりするかも」
「ほう」
「嘘、しない、エミヤがいないと私呼吸もできない」

エミヤの薄ら笑い怖い。そこらのB級ホラーでビビってたのが馬鹿らしくなるね。
うちのサーヴァント達は何かあるとすぐに暴力に訴えようとするからほんと怖い。
エミヤはまだ申し訳ないって気持ちが感じられる分いいけど、アルトリアなんて剣の柄で容赦なくぶん殴ってくるからなぁ。
頭殴られて気絶した時は流石に本人も焦ってたしクーさんが止めてくれたけど。

「他所のサーヴァントはもっと優しいのかな」
「それは暗に私が優しくないということでいいのかね?」
「うーん、エミヤが優しくない訳じゃないんだけど…うーん…」

普通のサーヴァントは多分マスターをぶん殴ったり気絶させたりしないだろうしなぁ。悪意はないんだろうけどね。

「あ、別にエミヤ達に不満がある訳じゃないよ、私すごく今楽しいし」
「そうだろうとも。…私達以外のものを求めるのは認めないさ」
「へへ、私モテ期かな」
「それは違うと思うがね」
「あ、そう」

エミヤは最後に私の頭に包帯を巻くと、満足げに笑って、そしてありえない程の優しい手付きで私を撫でた。

「…簡単に言うなら、そうだな。君には黒が似合うんだ」
「自覚はある」
「ははは、そうか。ならいい」

エミヤは目を細めて笑ってみせた。
その金色の目を見て、何となく蛇を思い浮かべたのはエミヤには黙っておこう。

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