親友の為なら死ねる

「あっ国見ちゃんじゃーん、どうしたのこんな所で」
「………、こんにちは」
「何なのその間は!?」
「別に何もないっス」
「誰かと待ち合わせか?」
「っス。友達と遊びに」

学校から少し離れた駅前で国見ちゃんを見つけた。
制服のままで、携帯片手に佇む姿はいつも通りだけど、何だか少し嬉しそうに見えた。

「及川さん達こそ、どうしたんスかこんな所まで」
「こいつのテーピング探してんだけど、今日に限っていつもの店が品切れでよ」
「あー…お疲れ様です岩泉さん」
「ちょっと!何で岩ちゃんだけなの!」
「すいません、及川さんをいたわる要素が見当たらなくて」
「ほんっとーにかわいくない後輩だこと!」

国見ちゃんがまた何かを言おうとした時、国見ちゃんの持っていた携帯から間抜けな音がした。

「友達って男の子?女の子?」
「それ知ってどうするんですか」
「いや、ちょっと挨拶を」
「…」
「いったい!!何で殴るの岩ちゃん!」

俺が岩ちゃんを振り返ると同時に、国見ちゃんから「うぐっ」と呻き声がした。
見ると、国見ちゃんのポケットに突っ込まれている腕と脇腹の間から腕が生えている。

「くにみんひっさしぶりー!!」
「…お前な、驚くからやめろって言ってるだろこれ」
「出会いには驚きも必要なのです!」
「馬鹿じゃねぇの」
「いったーい!くにみんのいけず〜」

ぴょこぴょこと動く腕を引っ捕まえて、国見ちゃんは可愛らしい声の主を横に並べた。
国見ちゃんよりもずっと小さくて可愛い、女の子だった。

「おや、くにみんのお友達?」
「部活の先輩」
「先輩さんでしたか。いつもくにみんがお世話になってます」
「いやー、本当に国見ちゃんは手の掛かる子で…あいたっ」
「すいません、つい手が滑りました」
「滑ったってレベルじゃないよね!?」

国見ちゃんのお友達はふにゃふにゃ笑って俺を見る。岩ちゃんは何だか遠い目をしている。疲れてんのかな。

「名前聞いてもいい?」
「うぃっす!みょうじなまえ、くにみんの親友です!」
「誰が親友だよ、誰が」
「いいいひゃい、いひゃいよふにひん!」
「…何か、国見がこんなに女子と喋ってんの初めて見る気がするな」

確かに、国見ちゃんが女子と喋って、こんなにふざけ合っているのは見たことがなかった気がする。友達って聞いて、てっきり男子だと思っていたし。
後輩の春を感じて思わず口元を緩ませると、それを目敏く感じ取ったのか国見ちゃんはみょうじちゃんの襟首を掴んで引き寄せた。

「あそこの自販機で飲み物買って来て」
「えっなんで?わたしパシリ!?」
「もっとなまえが早く来てるもんだと思って急いで来たから喉乾いた」
「待たせてごめんなさいね!!何がいいのさ」
「アイスココア」
「りょーかいっす!」

国見ちゃんの財布を手渡されると、みょうじちゃんは一目散に駅の入口にある自販機に走っていった。
何というか、国見ちゃんが飼い主でみょうじちゃんが犬みたいな…。

「…及川さん」
「なぁに?」
「なまえはあげませんからね」
「えっ何!?国見ちゃんにも春が来たの!?ねぇ岩ちゃん春なの!?」
「うるせぇ」
「痛い!!」

岩ちゃんに殴られながらも、照れてやしないかと国見ちゃんの顔を覗き見るけど、いつもの眠たそうな無表情だった。
と思ったら、またみょうじちゃんが脇腹と腕の間に腕を突っ込んで、国見ちゃんが目を見開く。

「くにみん買ってきたよーココア!」
「…ありがと」
「おいクソ川、邪魔したら悪いだろ。行くぞ」

岩ちゃんに引っ張られて、少し体制を崩しながら手を振ると、みょうじちゃんは人懐っこそうな笑みで手を振ってくれた。
国見ちゃんは少し頭を下げて、みょうじちゃんの耳を引っ張っていた。

「彼女には優しくねー!」
「黙って下さい」
「国見ちゃんかわいいー!」
「岩泉さん、大変ですね」
「ちょっとそれどういう意味ー!!」





「くにみん、なに拗ねてんの?」
「拗ねてねぇし」
「もー、わたしくにみんの大親友だから心配ないのよー」
「何も心配してねぇよ」
「ならいいんだけどー」
「…俺は普通にお前のこと好きだぞ」
「わたしもよー」
「…死ぬほど好き」
「あー、わたしもー」
「なんかあったら相談しろよ」
「するするー、親より先にする」
「ならいいけど」
「えへへ」

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