思い出のあなたはいつもGR-18

「みょうじ先輩」
「…佐疫君?」
「そうです、お久しぶりです」

談話室で缶コーヒーを飲みながらぼーっとしていると、目の前に青年が立っていることに気が付いた。
顔を見上げると、どことなく見覚えのある面影を残した美少年が。

「逞しくなったねぇ、昔はあんなにひょろっひょろだったのに」
「…いつの話してるんですか」
「百年前かな」

隣失礼します、と言って私の横のソファに腰掛けた佐疫君は、もう立派な男の子だった。
もやしのようだった昔と比べると肩幅も、首も、背中も大きくなった。
柔らかいはにかみは、昔と変わらず可愛らしいけれど。

「…先輩、目に隈ありますよ」
「あ、わかる?やだなぁ、結構薄くなってきたと思ったんだけど」
「…何か、あったんですか?」

何もないよ、と言おうと佐疫君の顔を見ると、水色の瞳がじっとこちらを見つめていたので、驚いた。

「先輩、女性なんですからあまり無理はよくないですよ」
「だぁいじょうぶ、もうあんな無茶はしてないから」
「……先輩はいつも嘘ばかりですね」

佐疫君は、拗ねたようにぷいとそっぽを向いてしまった。
対する私はぽりぽりと頬を掻くだけで、何故彼がそんな表情をするのかわからない。

「…先輩はいつもそうだ」
「えー、私何かしたっけ」
「右手と左足を喰いちぎられた時も、心臓の半分を持っていかれた時も、頭を吹っ飛ばされた時も」
「あー、まぁね、あの頃は若かったから」

確かに、言われてみればそんなこともあったかもしれない。
昔、全身血塗れの状態で館を徘徊して、よく肋角さんや災藤さんに新入り達に悪影響を及ぼすからやめろと怒られたものだ。

「…俺は、血の滴る手で頭を撫でて、肉の抉れた顔で笑う先輩に、怯えていて」
「ごめんね、もう亡者と大差なかったよね」
「いえ、そうではなくて」
「ごめん佐疫君の言わんとしていることがみょうじさんわかんない」

首を傾げながら、青空の瞳を覗き込んで、ぎょっとした。佐疫君の瞳が、涙の膜を張って揺れていたのだ。
自分が今にも泣き出しそうなことに気が付いていないのか、やけにしっかりした声で佐疫君は喋り続ける。

「…いつか、先輩が、帰って来なくなるんじゃないかと、」
「………大丈夫だよ、私ここにいるし」
「違う、俺は、」
「だぁいじょうぶだって」

なおも口を開こうとする佐疫君の頭に手を回し、自分の肩口に押し付けた。
驚いた佐疫君は身動ぎをしたが、手に力を込めると大人しくなった。

「……大丈夫、斬島君私と違って強いから」
「………はい」
「黄泉で迷うのだって私以外はまずあり得ないしさ」
「…………はい」




段々と制服が湿っていくのを感じながら、ぼんやりと斬島君が死んだということを思い出した。
佐疫君と任務に出た斬島君が、敵の攻撃で重傷を負い、帰ってくる途中で死んだそうだから、きっと彼は斬島君のお見舞いの帰りだったのだろう。
そして、私の後ろ姿を見つけて、昔のボロ雑巾のようだった私と今の斬島君が重なったのだ、きっと。
声も上げずに涙を零す佐疫君に、大丈夫だという思いを込めて、柔らかな髪をぐしゃぐしゃにした。






「肋角さんが私をこき使うから、ピュアな少年の心に多大なる傷を残してしまいましたよ」
「さて、なんのことやら」
「あぁ、確かに頭を吹っ飛ばされて、自分の頭抱えながらどうしましょうって帰ってきた時もあったね」
「災藤さん笑わないで下さいよ、あれ結構真面目だったんですからね」

だからはははじゃないですって災藤さん。


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またまた密かに友人に捧げます。

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