緑間くんと寒い日のはなし

その日はとても寒い日だった。
いつもより少し早い時間に来てしまい、寒い控室で待っていた。
持って来ていた小説を読みながら、たまに手をこすり合わせて寒さに耐える。
暖房は付いているのだがどうやらあまり意味がないようだ。

ひんやりとした空気と幽かに聞こえるピアノの音。
少しだけその雰囲気に酔っていた。



「あれ?しんたろーじゃん。今日は早いねー」


突然、空気が変わった。
その声は最近知り合った苗字名前だ。
オレの次にレッスンをしているらしく一方的に知られていた。


「しんたろー寒くねえの?ここ外と気温かわんねーよ」

そう言って、名前は持っていたカイロとマフラーをオレに投げつける。

「最悪なのだよ…」

「何が?風邪引くよりましだって。な。」

ニコニコと何が楽しいのか分からないが名前は笑顔でオレにマフラーを巻いた。
少し名前の体温が残っていて暖かい。

「名前はいつもこの時間に来てるのか?」

「うーん…。まちまちかなあ」

「ほう。早く来ても待つだけでやることは何もないのだよ」

「何もないけど、しんたろーのピアノが聞けるじゃん。しんたろーのピアノ聞くために早く来てるんだけど」

「は?」

「僕はしんたろーのピアノが大好きなのだよ」

「真似をするな」

名前の言葉が恥ずかしくなってマフラーに顔をうずめた。名前の匂いがする。

「…不公平なのだよ」

「何が?」

「オレは名前のレッスンを聞いたことがないのだよ!」

名前はお腹を抱えて笑いだした。ピアノの先生に怒られるくらいに。
そしてオレのレッスンの順番がきた。
立ちあがろうとしたら横から袖を引かれて、


「しんたろーには練習した完璧なピアノの音しか聞いて欲しくないのだよ」


と言われた。
「真似をするな」と言ってカイロを投げつけた。
が、名前はニコニコ笑っているだけだ。


寒いと思っていたがいつの間にか部屋は暖かくなっていた。
冷えていた指先も温まっていて今日のレッスンは気合いを入れて弾こうと密かに思ったのだ。




緑間くんと寒い日のはなし











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