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いつも食堂でみんなと昼食をとるので、1人だけ弁当持参はとてもドキドキした。
お弁当まで美味しそうで、あの朝の短時間にこんなに作ったのかと思うと雪子さんの料理の腕は凄いなあ、としみじみ思った。
「黒子っち今日はお弁当なんスね〜。美味しそう!」
「美味しいです」
「珍しいな。お父さんが作ってくれたのか?」
「いえ。お母さんが…」
そう言ったと同時に、赤司君が箸を落として固まった。
赤司君から不穏な空気を感じ、みんなも一言も喋らなくなる。
「黒子。いつから住んでるんだ?」
「ひ、引っ越してきたのは昨日です」
「……そうか」
赤司君が張り付けたような笑みで聞いてきた。とても怖い。
期末試験まで赤司君の前で苗字君の話題を出さない方が良さそうだ。
部活も終わりヘトヘトになりながら家へ帰ると、雪子さんが「おかえり」と迎えてくれた。
「おかえり」と言ってくれる人がいるなんて凄く新鮮で嬉しい。
顔を赤くしながら「ただいま」と言った。
夕飯の支度は出来ているそうで先にお風呂に入るよう促された。
家族4人で食卓を囲むのがドキドキした。
隣に苗字君が座っていて緊張する。
こんなにも食事が楽しいとは思ってもいなかった。
見たいテレビ番組もなく、部屋戻ると苗字君が入ってきた。
「まだ片付いてないんですか?」
「いや、まあまだ片付いてないんだけど…。そうじゃなくて、これ、渡しに来た」
そう言ってハードカバーの本を2冊ボクに差し出してくる。
「色々あったから忘れてるかもしんないけど、前に図書室でオススメの本を貸す約束したじゃん?だから、僕の、黒子くんへオススメする本…選んでみた」
「あっ…」
そうだ。ボクは食事会が開かれる前まで苗字君へのオススメの本を選んでいたんだった。
「いつでも良いから読んで欲しい…」
「は、はい!すぐにでも読みます!」
「それで、その…せっかく兄弟になったんだから名前呼びにしよう? しんたろーもおかしいって言ってたし。だから、この本を、黒子くんが受け取ったらその瞬間から名前呼びね」
「…はい」
そっと手を伸ばして苗字君が差しだしている本を受け取り、胸に抱える。
普通のハードカバーの小説のはずなのに、重たく暖かく感じた。
「やっと兄弟になれたな!テツヤ!」
「そうですね。…名前」
お互いに名前を呼んで、手をとって笑った。
この2冊の本は大切に読もうと決めた。
名前は「早く部屋片付けないと母さんに怒られる!片付いたらテツヤも自由に入って良いからな」と言って部屋へ戻って行った。
「……名前」
ぽつり、と自然と声が出た。鏡に映るボクの顔は真っ赤だった。