15
引っ越し当日。
父親と車で苗字君の家へ向った。
苗字君の家はマンションで、玄関先にダンボールが積まれていた。
これ全部が車に乗るのだろうか…。何往復かしないといけないようだ。
ダンボールを下ろしたり、苗字君と雪子さんに部屋を案内したり、ダンボールを積んだり、気付けば日が暮れていた。
雪子さんは掃除が早い人らしくすぐにダンボールがなくなり綺麗な雪子さんの部屋が出来あがっていた。
苗字君の部屋にはまだダンボールがいくつも転がっている。
凄く不思議な光景だった。
今までなかったものが家を満たしている。
ドキドキして落ち着かない。
引っ越し記念として、夜は外食だった。
家族となり初めて4人で行動した。
ボクの隣に苗字君がいて、父親の隣には雪子さんがいて、この光景はなんだろうと何度も思った。
少しずつ家族になれたらいいな、心の中で呟く。
「引っ越しお疲れ様。今日からやっと家族だね」
父親がニコニコしながら言った。
「私のことは難しいとは思うが気軽にお父さんと呼んで欲しいな」
「はい。お父さん」
苗字君はニッコリと笑った。
「テツヤくんは私のことをぜひお母さんって呼んでね」
雪子さんがニコニコと手を差し伸べてくれる。
「…おかあさん」
自然と言えただろうか。久し振りに発する単語だ。
泣きたくなるような気持ちでいっぱいだ。下を向くと涙がこぼれそうだ。
横にいた苗字君が机の下でそっと手を握ってくれた。
その暖かさにまた泣きそうになり、苗字君の手を強く握り返した。
ふわふわした気持ちで家に帰った。
苗字君と雪子さんがいると家の中が明るくなったような気がした。
ボクは意外と家族を受け入れることができたようだ。
そろそろ寝ようか、という時にドアをノックして苗字君が入ってきた。
「黒子くんゴメン。今日一緒に寝ても良い?」
「…えっ!!?」
驚いて固まっているボクに苗字君は、ダンボールをまだ片付けきれていなく寝るスペースがないのだと説明した。
「そ、そうなんですか…。それでは、ベッドどうぞ」
「いや、いいよ。僕床で寝るし…」
「それはさすがに出来ないです。どうぞ使って下さい」
「あー…それじゃ、一緒に寝ようか」
「はあ?」
そう言うと苗字君はベッドにボクを引きずりこんだ。
壁側にボクを押しやるとゴロンとこちらへ寝返りを打つ。
「おやすみ。黒子くん」
そう言って、苗字君はボクのおでこにキスして眠ってしまった。
ボクは何が起きてるか分からず固まった。
ただ目の前にある温もりに心臓が煩く、寝るどころではなかった。
苗字君は危険人物だと認定した。