今からあたしが綴るのは実にベタな「ダイスキなカレ・観察日記」であり、性癖のお披露目会である。
 カレは今現在ちょうどあたしの前に存在している。小さな喫茶店で、小さな机を挟んで、あたしはしっかりとカレを見つめている。その姿は恋するケナゲな少女そのものだ。一方のカレの目線は……自分の手元。ううん、でも、それでいいの。それがいいの。
 あたしも少し視線を落として、カレの指先を見つめてみた。せわしく動く、10本の、ほっそりとした白い指。完璧。あたしの好みの指そのもの。そしてその指先で踊る銀色のパーツたちは、まるで宝石のようにキラキラ光っている。やっぱり、この人の指にはよく似合う。だからその手はもう、あたしを撫でたり、あたしの頬に添えたり、唇をそっとなぞったりなんてしなくてもいいのだ。なんならそういうのはちょっともうだいぶ気持ち悪いので、ただただ今この瞬間がずっと続けばいいのだ。
 恍惚のあまりちょっとばかし溜め息を吐いても、目の前のカレは頭の位置を少しも動かすことなく、作業に没頭するばかり。周りのお客さんが少うし気味悪がっているような気がしないでもないが、そんなことはどうだっていいくらい、あたしの心は満たされていた。
 なんでって、恋をしていてこれほどまでに幸福を感じる瞬間がこれまでにあっただろうか!自分で言うのもちょっとアレだけれども、あたしは人より若干、カワイイ。顔が丸くて白くて、目がぱちくりしていて、髪の毛は茶色くふわふわしている。お知り合いからはよく、お人形さんみたいだね、なんて言われ、気心知れたお友だちからはよく、男ウケする顔だね、なんて言われる。そう、こんな見た目のせいで、モテてしまうのだ。こんな言い方をするとまた、気心知れたお友だちから「自慢かよ!」なんて言われちゃうんだけど。でもホントに、そう言わざるをえないくらい、あたしに言い寄ってくる男、どいつもこいつもくだらねえヤツばっかなのだ。へらへらにやにやして、なにか欲しいモノある?どこか行きたいトコある?って。どうにもこうにも虫唾が走る。あとなにより、手が汚い。んで似合わない。もうウンザリなのだ、そういうのは。
 でも、カレは、違った。気心知れたお友だちに無理やり連れてこられた合コンで、カレはへらへらもにやにやもすることなく、ただもくもくとスマートフォンを弄っていたのだ!男友達の必死のフォローも無視して1人の世界にこもりきるカレに、あたしはクギヅケになってしまった。この人は違う。この人がいい!そうしてあたしは半ば無理やりカレの連絡先をゲットして、半ば無理やりこうして会う機会を作ってきたのだ。
 まるでプログラミングでもされているかのように、少しの迷いもなく動かされるカレの指先。ずーっと見つめていたいほどに美しい。これが結婚願望というものだろうか。そんなモノ、こんな世界じゃあこの先もずっと持てないと思っていたよ。
 少し、もう少し、欲を言うならば、その指先を――口元に持っていってくれれば、あたし的に、すごくうれしいのだ。うん、これが性癖、かな。キラキラ光る銀色のパーツをつまんで、そっと咥えて、ガリ、ガリ、なんて、音を立てて食べてほしい。こんなコト、今までの男に言ったら、超ドン引きされただろうな。でも、カレは違う。こんなあたしを、きっと馬鹿にして笑うだろうけど、心の奥の奥ではしっかり、受け止めてくれるのだ。あたしにはわかる。だってカレとの出会いは、運命だったんだもん。
 そう、これは運命。あたしがそれを確かに感じたのは、カレのいちばんの趣味を、知ったときだった。

「おい」
「んっ?」
「なにじろじろ見てるの」
「んー?あのねー、そのパーツそのまま食べてくれないかなーって」
「はあ?」

 馬鹿にしたように笑うカレの美しい手元に、同じくらい美しい、分解されかけのスマートフォン。






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