一週間だけ恋人だったあの子について


彼女が薄々気がついていることは知っている。こんなことバレたら、今までしてきたことが全て無になってしまうことも全部全部わかっている。
頭では、全部わかっているんだ。
でも、それでも、僕は、僕の身体は正直で、気付いたらあの子を選んでる。
彼女との約束は平気で破れるのに、あの子との約束は、何が何でも守らなきゃって、そんな気になる。


あの子、久遠玲といた期間は、数年前のたった一週間。
普通なら、霞んで風化してしまいそうな脆い記憶だ。
それでも僕は、あの子の笑顔、泣き顔、優しさ、小さな気遣い、見栄、大人ぶった仕草…どれも鮮明に覚えていて、忘れるなんて出来そうにない。
守ってあげたくて、大切にしたくて。そのためなら、何を傷つけても構わないほどで。
数年ぶりのホワイト・クリスマス。彼女と再会したのは、あの一週間とは正反対の、寒くて凍えそうな夜。
路地裏に蹲っていた玲を見つけたとき、僕の頭の中に、もう奈津はいなかった。
冷たくなった身体を慌てて抱き上げて、近くにあったホテルに入る。そのまま、あの日と同じように、僕等は関係を持ち直した。
後日、ようやくクリスマスの約束を思い出して少し焦ったけれど、本音を言えば、そこまで困っていたわけでもなかったような気もする。
幸い、六道が誤魔化してくれていたみたいだけれど。
その日からまた、僕と玲の関係は始まった。


「玲、待たせてごめん」
「ううん、待ってないよ!」


仕事だなんて嘘だ。忙しいなんて全くの嘘、むしろ暇なくらい。玲と会うために、片付けたんだから。
双子の兄同様、超直感という特技を持つ彼女に、どこまでこの嘘が通用するかはわからない。でも、もういいんだ。




一応、謝っておくよ。
数年付き合った君より、たった一週間の恋人を取ってごめんね?
君の涙に、心を痛められなくて、ごめん。
君に、心を動かせなくてごめん。


謝る気なんてこれっぽっちもなくて、ごめん。
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