哀れかな、僕は君の特別なれど君は僕の特別に非ず



絶望した奈津の表情に、初めて僕は同情した。
僕は、本当に君の特別だったんだね。でも、僕の特別は、君じゃなかった、玲だった。
あれだけたくさんの人間に愛されていながら、本当に愛した人間とは相思相愛になれなかった奈津。
当たり前に与える愛すら与えられなかったにも関わらず、本当に愛した相手と相思相愛となった玲。
どっちが幸せかなんて、僕にはわからない。
でも、これだけはいえる。
僕は、これから先も、君を好きにはならないよ。好きには、なれないんだ。


だって、君では僕を理解できないだろう?
溢れるほどの愛を当たり前のように享受している人間に、それが欠落した人間の気持ちなんかわかるものか。
両親すら僕を見捨てた。誰にも頼らずに、今まで生きてきた。
そんな人間にとって、愛がどんなものか、君にわかるものか。
玲と僕は、確かに最初は傷を舐めあうような関係だったけど、今は違う。
そう考えると、一度離れたことは吉と転がったのではないか、と、玲は笑った。
一人でも歩いていける強さを手に入れたと。だから、支えてもらわなくてもいいのだと。でも、一人で立ち続けるには、寂しすぎるから、隣にいて欲しいと。
そう言って、泣きながら、笑った。
そんな玲を、好きだと、本当に好きだと、身体が慟哭した。








「さよなら、奈津」


僕はもう行くよ。
ごめんね、は、言わない。
これほど君を傷つけたこと、許されるなんて思ってないから。
そのくらいの倫理観はあるんだよ?
さよなら、僕の知らない誰かと、幸せにね。


「君のこと、好きにはなれなかったけど、嫌いにもなれなかったよ」





そうして僕等は、五階の窓から飛び降りた。



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