どう足掻いたって私はあの子の代わりにはなれなかった



「さて、言い訳という名の事情暴露でもしようか」


そう言って、執務室にいるはずの恭弥さんが、私の部屋に入ってくる。
事情暴露…?
予想外の言葉に頭が追いつかない。どういうこと?恭弥さんは、私に何を言いにきたの?


「単刀直入に言うけどね…僕は、別に君のことが好きではなかったよ、沢田奈津」
「……、え…?」
「利用価値があったから、君の告白に応じた、それだけだ」
「…う、そ…」


なに?
恭弥さんは、一体何を言っているの?
だって、あんなにも優しかったじゃない。あんなにも、大切にしてくれたじゃない。
…あれが、全部、嘘だったっていうの?


「そう、全部嘘、全部演技さ」
「上手く騙されてくれてありがとう」
「本当は、ずっと騙しておくつもりだったんだけどね」
「ことが予想外の方向に転がったものだから…」


形のよい唇から次々と放たれる無情な言葉の数々。
嘘だった。
恭弥さんが私にくれた愛そのものが、全部、嘘だった。


「僕は、玲が好き」
「だから君とは、結婚にまで話が進む前に別れるつもりだったんだけど…手間が省けてよかったよ」


「……いつ、から?いつから、久遠さんと…」
聞かずにはいられない。
それが、自分を傷つけるだけだとわかっていても。


「…二年前、僕と玲は、一週間だけ、恋人同士だった」
「で、こないだのクリスマスに、またおにーさんと再会したの」
「くり、すます…急用だったんじゃ…」
「急用だったよ?…倒れてる、玲を見つけた、二年前とは反対に」


二年間、本当に、長かったよ。
そう言って笑う恭弥さんに、絶望した。
ああ、そうか。私は、あの子の代わりにすらなれていなかったんだね。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -