彼女、泣いてたわよ



「っ、どういうことですか!?」


バンッ、と、思い切り机を叩きつける。目の前には、俺の可愛い妹、奈津の婚約者であり、雲の守護者でもある雲雀さん…。
その隣には、浮気相手の久遠さんの姿があった。
京子ちゃんやハルとショッピングに出かけて、そのまま泣いて帰ってきた奈津。その原因は、雲雀さんの浮気。
まさか、と思う心と、勘違いであってくれという期待とは裏腹に、俺の超直感は最悪の展開を肯定している。
執務室には、俺や守護者、リボーン達アルコバレーノまで、皆勢揃いしている。当たり前だ、だって皆、奈津が好きで、でも、奈津が幸せなら、と思って身を引いたんだ。そんな視線にさらされているというのに、雲雀さんはおろか、久遠さんさえけろっとした表情を崩していない。
それが、全員の苛立ちをさらに煽っていた。


「…ヒバリ、どういうことか、事情を説明しろ」
「ふふ…ずいぶん殺気立ってるね、赤ん坊」
「ヒバリ…この状況、わかってんのか?」
「わかってるよ?事情と言ってもね…まぁ、見たまんま、だよ」
「……じゃあ、浮気を認めるんだな?」
「そういうことになるね」


しれっとした顔で、そんなことを言う。何を言ってるんだ、俺達が、どんな思いで奈津を譲ったと…!
許せない、奈津を傷つけて、こんなの、絶対に許せない!!


「雲雀…てめぇ!奈津さんがどんな思いでてめぇを待ってたかわかってんのか!?」
「さすがに…ちょっと許せないのな」
「男の風上にも置けんぞ!」
「とんでもないことをしてくれましたね…奈津さんの気持ちを踏みにじるなんて、許しませんよ?」


皆、口々に雲雀さんを非難する。でも、それすらも雲雀さんにはどうでもいいようで…鬱陶しそうにそれを聞いてたかと思うと、不意に久遠さんの手をとって立ち上がり、そのまま部屋を出て行こうとする。
止めようとしたけど、その前にビアンキが引き止めた。


「…彼女、泣いてたわよ」
「……それが?」




息が、詰まった。
雲雀さんは、いつも奈津にだけは優しかった。
…こんな、冷めた声、聞いたことがない。



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