ねぇ、ちょっと、って、その言葉から始まった。

馬鹿な、というかタチの悪い男に引っ掛かって、ツケを踏み倒され、途方にくれて雨に打たれてたときに、声を掛けてきたのが彼だった。
艶やかな黒髪と冷たい黒眸。しゃらりと揺れるアクセと、品のよいスーツ。嗚呼、ホストだなって、解るくらいには、私の目も肥えていたんだろう。
ちなみに第一声は前述したが、彼の第二声は「邪魔」だった。
イラついて馬鹿らしくなって、零れそうになった涙がさっさと引っ込んでいったのを覚えて居る。
そうして彼は、傘もささずに、私の隣に座った。スーツが汚れるのも構わずに。
何、と聞いたら、緩やかに視線が此方に流れてくる。邪魔なんじゃないの。そう続ければ、彼はくっと喉を鳴らす。不意打ちに弧を描く唇が酷く蟲惑的だった。

「邪魔だよ、泣くような女は鬱陶しい、不細工だし。僕は今の、その綺麗な顔の、君の隣に座りたいから」

嗚呼、全く口が上手い。無愛想な彼がホストな理由が、これで解った。女を喜ばせる台詞が何か、この男は熟知しているのだ。
何処で微笑めばいいのかも解ってやっているんだろう、きっと。しかも完璧だ。
悔しいから絶対に靡いてやらないと決めた次の日。
何故か店にやってきた彼に指名され、何やかんやで互いの一番傍にいることになるのは、そう遠くない未来の話。


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