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沢田綱吉がドンボンゴレになるまで
間違ってしまった綱吉と間違えさせてしまった雲雀
綱吉→雲雀っぽいけども腐る一歩手前、痛んでるくらいの






どうして俺だったんでしょうね、と、沢田綱吉は、どこか諦めたような声音で呟いた。それは問いかけのようでもあったし、独り言のようでもあった。さぁ、と、どうでもよさげな声音で答えれば、何故か彼は嬉し気に笑う。

「知ってますか、雲雀さん。俺はずっと、貴方に憧れてたんですよ」

雲雀のようになりたい訳ではなかったが、雲雀のように選択をしたかった。
大事なものを取り違えない、すぐに大切なものを取捨選択できる、そんな強さがあれば取りこぼさなかった筈の多くのものが、今も綱吉の夢の中で綱吉を責め立てる。
綱吉は人としては優しかったが、組織の頭としては甘ったれだった。それを自覚しているからこそ、ずっと自分を苛んでいる。

沢田綱吉は、悪人でなければ殺せない。
少しでも相手に人らしさが垣間見えたら、もう駄目だ。大量の麻薬をばら撒き多くのファミリーを潰した悪徳ファミリーのボスを殺した時だって、彼が妻子を庇う素振りを見せただけで、攻撃を躊躇った。結果、相手は最後のチャンスと爆弾を使って自爆し、男だけを殺していれば助かった筈のファミリーの残党も彼の妻子も死んでしまった。
誰も彼も、一人の人間である以上、そこには善と悪が確かに存在して、どちらかしかない人間なんてどこにも存在しない。此の世は、勧善懲悪じゃない。

ある時は敵を殺すことを躊躇う余りに自分のファミリーに不殺を強いて、守るべきボンゴレの面々を殺した。彼らはボスの命令を遵守せず、相手を殺していれば助かる可能性だってあった筈だった。自分の指示で人が死ぬ、敵だろうか味方だろうが、自分はどちらを殺すかの選択しか選べない。

ある時は自分を案ずる仲間の声を振り切って戦場に飛び込んだ。
自分は傷ついても、それで仲間を守れるなら、それで仲間が助かるなら。それだけで敵陣に突っ込んで、自分を心配する誰かの声なんて自己犠牲心を免罪符に、無視をした。
「君って、他人を傷つけるのが趣味なんだね」
あの時の自分に雲雀が投げつけた何の気ない言葉は、今でも綱吉の胸の奥に刺さった儘抜けずに時々じくじくと痛み続けている。

雲雀は当たり前に残酷に、うつくしくて酷いひとだった。
人間でないみたいに、どこまでも綺麗だった。



「僕は君の嫌いな、自分のいのちも他人のいのちも大切にしない悪党だよ」
「知ってます、それでも、貴方の伸びた背筋はうつくしかった」
「君もボンゴレも、別にどうとも思っていない」
「貴方は俺の為にいのちを投げ出したりしないひとです、だから貴方の事が好きだった」
「君は暴力に美学など見出さない人種だった筈だ、沢田、君可笑しいよ」
「……何ですかね、俺、いつから可笑しくなっちゃったんですかね」


貴方は誰の意思の元にも動かないひとで、貴方はただ自分の為にしか動かないひとで、貴方は自分の行動に後悔なんてしないひとで、貴方は大切なものを見失ったりしないひとだった。貴方は大切なものの為に、自分の意思を曲げたりしないひとだった。

きっと沢田綱吉は死んでしまったんです。
沢田綱吉は死んで、そこにはドン・ボンゴレだけが残った。
貴方のように選択がしたくて、道を誤ってしまった俺が残った。


「俺を殺してください雲雀さん、俺はただの残滓でしかないから、だからどうか」


貴方ならドン・ボンゴレを殺して、沢田綱吉をそこに戻してくれますか。