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「さて…迷惑かけたね」
「い、いえ!さっきのは、獄寺君が悪いと思いますし…ほら、謝って!」
「っ…、」
「獄寺君…!」
「構いやしないよ、あんなのは言われ慣れてんだ。娼婦を嫌う連中の気持ちも、わからなくはないからね」



けらけらと明るく笑うアンジェリカさんは、そう言って俺達の席へと座る。その様子を見守っていた骸やダッチさん、ロックさん、リボーンも、やれやれと息を撫で下ろして、空気は少しずつ元に戻っていった。



「それにしても…雲龍があんなに怒ったのを見たのは、久しぶりだね。あの子なりに、ここには思い入れがあるってことかい…」



そう言うアンジェリカさんの顔は、どこか穏やかで優しいものだった。
ふわりとした、温かい…そう、まるで…母さん、みたいな。



「…なるほど、雲龍が言ってた娼婦館ってのは、ここのことだったか」
「そうみたいですね、」



ダッチさんがそう呟き、それに骸が同意を示す。話について行けていない俺とロックさんは、頭にはてなを浮かべていた。それに気付いたのか、ああ、と声を漏らしたアンジェリカさんが、短くなった煙草を灰皿に押し付け、ぽつりと声を漏らした。



「…何のことはないさ。
十年ほど前、この"エンジェルズ"の裏で、銃持って血塗れで死体の山の上に立ってた雲龍に、アタシが食べ物と寝床をやった、それだけさね」











……十年前。



雨でも降りそうな、陰鬱な天気だった。最後の客を店の外まで送り出した時、裏で突然銃声が響いた。それ自体は別段珍しいことでもなかったけれど、何となしに、そこを覗いてみただけだった。



「……まだ、ガキじゃないかい」



二桁にもならないような小さく、幼い少年だった。身の丈に全く合わない大きすぎる大人もののシャツを羽織り、腕をまくってかろうじて行動が出来るように、申し訳程度に着ていた。むき出しの白い足は細く痩せこけていて、ろくなものを食べていないのは見てすぐにわかる。それでもその眼光だけは冷たく鋭く、どこまでも凍て付いていて。抱えた身体の三分の二以上もある大きな銃と、彼の身体に飛び散ったおびただしい返り血、そして周りに散在するそこらかしこに穴の空いた無残な死体。何が起こったのかは、一目瞭然だった。


けれど、それと同時に。
ここの子供らしく、血と泥と臓物に塗れてもなお、その子供の風貌は一線を画していたのだった。少年趣味でなくとも、いくらでも買い取り手が見つかりそうな、子供ながらに端整な顔立ち。暇を持て余したマダムにでも見せれば、喜んでこちらの提示した金額を払いそうなほどである。もしかしたら、そういった貴婦人や変態コレクターの元から逃げ出してきたのかもしれない。



「…まぁ。なんにせよ、手当てが必要だね」



栄養失調、過労、脱水症状、傷の化膿……その他もろもろにより、ついに限界を迎えて派手に倒れ込んだ少年を抱え上げて。
アンジェリカは、エンジェルズの中へと引き返した。