other | ナノ



店中がしんと静まり返る。
睨み合う雲雀さんと獄寺くんに、全員の視線が向けられていた。



「彼女達を侮辱するなら、出て行ってもらおうか」
「……俺は、売春婦が嫌いなんだよ」
「君の美学なんてどうでもいい、どんな街にだって、どんな悪党にだって礼儀は必要だと言ってるんだ。この街に足を踏み入れたなら、ここのルールに従え」
「はっ…そうかよ。…結局テメェも、女を買うような男だったってことか」
「……」



一触即発とは、まさにこのことかもしれない。触れたら爆発する。極限まで高まった緊張感と殺気は、冗談ではなく導火線のついた爆弾を連想させた。今のは獄寺君が悪い。そう言いたくとも、鋭い殺気で声も出せない。ごくり。知らず、溢れた唾液を咀嚼した。



「…その辺にしときなよ、雲龍」
「……アンジェリカ、」


あわや乱戦か、と思われたそこに、この場にそぐわない、酷くおっとりとした声が待ったをかけた。ステージ上に腰掛けた妙齢の女性が、煙草を吸いながらこちらを見やっていた。アンジェリカ、と呼ばれたその人の姿を見るなり、雲雀さんは溜息をついて銃を降ろす。遅れて、獄寺君も構えを解いた。チッ、と舌打ちするのも忘れずに。



「銀髪のアンタ、名前、何ていったかい?」
「……獄寺だ」
「そう、獄寺。見たとこ、アンタは余所者だね。ここにも詳しくないのかい?」
「……」
「郷に入っては郷に従え、だ。アタシらを嫌うのは構わないけど、この店ん中で公言はしないでくれるかい?――ロアナプラ(ここ)の女は、武器振るか腰振るかでしか、生きてけないんだよ」





それは、とても重い言葉だった。
口調こそ軽いものだったけれど、俺の今までの常識を覆すには十分だった。武器を振るか腰を振るか…殺すか身体を売るかでしか、生きていけないということ。生きることすら出来ないということ。

それが、ロアナプラ。



「雲龍、アンタどうせ、今日もセレネだろ?一足先に、セレネ連れて部屋行ってな」
「……ああ、そうするよ」
「行きましょ、雲龍。今日はすっごいサービスがあるわよぉ」
「…そう。それは、楽しみだね」



一度、獄寺君に視線をやって。
雲雀さんとセレネさんは、上の階に上がっていってしまった。