夏祭りだというのに、今日も風紀は大忙しである。
目の前で盛大に屋台を潰されていくのを見ながらのんびりとかき氷を頬張り、そんなことを思う。
なんと言うか、ご愁傷様。
諦めて恭弥にお金を払えばいいと思う。


「うちの風紀委員地元最強――!?」
なんて声が聞こえてくるけど、それは違うよ、沢田君。
最強じゃない、最凶だ。
というか、最強というなら、地元どころの騒ぎじゃないだろう。
以前ちらっと話しているのを聞いたが、どうやら裏社会にもだいぶ影響力があるらしいのだから。
まぁ、そうだろうね。
この間から盛大に乱闘騒ぎやら銃乱射事件やらと派手に起こっているけれど、恭弥はそれに動じた素振りもない。
自分に向けて発砲されたって、顔色一つ変えず、いや、笑みすら浮かべて撃退してしまう。

これがどれほど異常なことか、わかるだろうか。
いくら異常に強いとはいえ、恭弥は、一介の中学生なのだ。
それなのに、銃に動じない。死体にすら、眉一つ動かさない。

それは最早、異常、異端、異質、異能…ありとあらゆる言葉をかき集めたってまだ足りない。
そう、恭弥は異常だ。


…そうはいっても、私は彼を恐れたことは一度もない。
だって、恭弥は優しいのだ。
それが、適応範囲を限りなく制限するものだとしても、彼は、そういった感情が欠落しているわけではない。
だから、私は彼がとても好きだ。

恭弥は何も言わない、私も何も聞かない。
聞けばなんだって教えてくれるのだとわかっていても、私は何も言わないでいよう。
私は、何も知らないままでいよう。
唯一、彼が帰ってくる日常であるために。



「…また、大騒ぎだね、いってらっしゃい」
「……いってきます」



そして、おかえりなさいと言おう。

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