fiction | ナノ





大人雲雀が浮気、裏表現有り
愛を越えた劣情の話







何をもって恋となし、何をもって愛となすのか。もう随分と僕は考えているのだけれど未だに答えは出てはくれない。僕は確かに彼女にたいして可愛いとかいとしいとか感じているはずなのに、どうしてだか滅茶苦茶にしたいという感情は沸き起こらないのだ。そして嫉妬もまたしかり。だから彼女に対して乱暴をすることはない。嫉妬して喧嘩することもない。よく出来た理解ある彼氏だと誰もが彼女に言っているらしいが、果たしてそれは本当に真実なのか。冷静でいられないのがいわゆる愛ではないのかと拙い知識を総動員してみても結局堂々巡りでまあ彼女が笑っているのだからそれでいいかという結論に至る。


そう。
彼女が笑っていれば、それでいいはずだった。






「だけどさ、雲雀は結局私のところにくるんだね」


ゆうるりと口角を釣り上げて笑う女にうるさいよと一蹴するけれどどうしたって彼女の言い分は正しくて、それ以上の言葉は吐き出せない。
代わりに唇で塞いでやったら満足そうに、そして猫のように瞳を細めるのを視界の端に収めながら、二人分の体重が静かにベッドへと沈んでいく。

この関係が所謂浮気というものであるのも解っている。
ただ。
僕は、この女が欲しかった。
それは恋愛的なお綺麗な感情では決してなく、有体に言えば、この女が抱きたくて仕方なかった。ただの肉欲だった。
けれど、彼女に感じたことのない、支配欲とでも言えばいいのか。滅茶苦茶に壊してやりたいという乱暴で物騒な激情に駆られて仕方が無いのだ。
一番謙虚な例はまさに今で、徹夜明けに家ではなく名前の元へと足が向く。

どうも、男は風邪等のときには性欲が高まるらしいが、極度の疲労…つまり徹夜明けでもそれは適用されるらしい。
ツクリモノの睦言を欲しがらないのも逆に好ましかった。だって僕はこの女が好きなわけではないのだから。
独占したいわけでもない、自分のものにしたいわけでもない。
乱暴に掻き抱いて滅茶苦茶に突き上げて泣かせて鳴かせて快楽に叫ぶ声が欲しかった。
持て余すほどの劣情は、名前が僕をあっさりと受け入れたことで簡単に解決した。

上手いから。
気持ちいいから。

だから、抱いてもいいよと。抱かせてあげると、彼女はいった。
高飛車で高慢な言い草は、その余裕を突き崩してうやりたいという欲を上手く刺激し、むしろ美点として僕は見ている。
どこまでも上手くピースが噛み合ってしまっていた。


互い、邪魔にしかならない衣服を床へと落とし、深く絡み合う情事の狭間。長く深く絡ませ合う舌が離れ、唇を離したとき、ふと組み敷いた彼女が僕を見た。物言いたげな視線に、腰を掴んで揺す振りながら、何と簡素に問い掛ける。ぽた、と、己の額から滑り落ちた汗が一滴、名前の胸元に落ちる。カーテンの隙間から差し込み始めた朝陽に煌めくそれを何となしに見詰めていれば、どちらのものか解らない唾液に濡れ、艶めいた唇が震える。


「…別に、っ、ん……もし、バレたら…雲雀は、別れる気なのかな、って」
「……どっちと?」
「アナタの、可愛い彼女さん…ッ、あ、」


――――別れる。
今まで思考に昇らなかった言葉だ。嗚呼でも。確かに、名前の言う通り、バレたらその可能性も出てくるのだろう。そうなった時、自分はどうするのだろうと考えたけれど、結局答えは出なかった。言葉を断ち切った僕に下から噛み殺した笑声が聞こえたから、むっとして強く突き上げてやる。途端、甘ったるい嬌声に転ず声音に気をよくして、彼女の手を取り、指を絡めてシーツに縫い付けた。



バレたら。
自分は、その時どうするのか。
考えても答えは出ないけれど、今は。余計なことを考えず、目の前の女を喰らい尽くしたいと、それだけの思考に塗り潰されていく。

どうでもいいと唇を重ねる動作に、最低ねと笑う名前の声がやけに耳に残っていた。