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「ツナくんが悪いのよ、芽衣に逆らうから、芽衣の言うこと聞かないから」


ふざけるな
何もわかっていない馬鹿な女
自分のしでかした罪を思い知れ
誰よりもボンゴレ1世に近かったボンゴレ十代目は、もう二度とボンゴレなどには戻らないだろう









そもそも、どうして自分はあんな目に遭わなければいけなかったのだろうかと、恐怖の風紀書記こと沢田綱吉は愛しき主たる雲雀の傍で書類整理をしながら考えていた。
綱吉は、沢田綱吉であって沢田綱吉ではない。
彼は、一度二十二歳ごろまで生きた身でありながら、死んでもいないのに、なぜか逆行といった摩訶不思議な現象に遭ってしまい、十二歳の時点まで戻ってしまったのだ。
そこからは、強制的に人生のやり直しである。
だがしかし、その事実に綱吉は狂喜した。
前の人生は散々だった。中学時代は、最強の殺し屋とかいうふざけた家庭教師のせいで強制的にマフィアのドンになるための無茶苦茶な特訓をさせられ。高校時代は、ボンゴレからやってきた自分の婚約者候補だという頭のおかしな女に嵌められ。
一番酷かったのは青年時代だ。
姫川芽衣というその頭のおかしな女にあっさり騙されてくれやがった、かつての仲間と呼びたくもない連中に、やれ罪滅ぼしだやれ償いだと、嫌だとずっと拒否していたボスに強制的に就任させられ、それからはもう奴隷扱いだ。
人の話はちゃんと聞け、日本の法律を一から読み直してこいと怒鳴りつけてやりたいと切に願う。
人権どこいった、職業選択の自由は迷子になったのか、強制退場か。


それでも、一つだけ嬉しいことがあったな、と、その時のことを思い出して、綱吉はふっと穏やかな笑みを浮かべた。
あの時。あの美しい漆黒がいなかったなら。
自分はきっと、逆行した今の時間、こんなに凪いだ心ではいられなかっただろうから。
死ぬほど喜べたのは、自分にとっての絶対の主に、前よりずっと長く仕えられるから。


勝手にボスにさせられて数年。
とあるパーティ会場で再会した、中学時代の先輩。
雲雀恭弥。
中学を卒業すると同時に海外に留学してしまい、リボーンやボンゴレにさえもその所在を掴ませなかったとんでもない人。
そのくせ、世界でトップレベルの学校に在籍して、首席を誰にも譲らなかった凄い人。
その時点で、ボンゴレはようやく彼の人の優秀性を理解したらしい。
遅すぎだ、と、綱吉はせせら笑う。
子供だと見くびるからそうなるのだ。彼は、腕力だけの子供なんかじゃない。
逆行して、あの麗しき麗人の部下でいることを許されて、そのことに初めて気付いた自分を殴ってやりたい。
それこそ、生き物としての性能が違うのだ。


そんな人が、自分と対等に話してくれた。
そんな人が、自分の状況に気付いてくれた。
そんな人が、自分に存在意義を与えてくれた。


「君はボンゴレの傀儡にするには惜しい。君にその意思さえあるなら、君のその命も存在意義も全て、僕が背負ってあげよう」
そんなかっこよすぎる口説き文句を言われて、惚れない人間などいるのだろうか。
背負ってくれるというのだ。
自分の命も、存在意義も、何もかも。
神様がいるとしたら、きっと彼のことだと本気でそう思った。
たとえ、過去の雲雀が何も知らなくても、憶えていなくても、綱吉にとっての神様は雲雀ただ一人なのだ。



「雲雀さん、今日の分終わりました」
「ああ、早かったね、そこに置いといて」
「わかりました、見回り行ってきますね」
「ん、」


何も憶えていなくても。
あの約束の通りに、仕えさせてくれたことが、何よりも嬉しかったのだから。

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