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雲雀恭弥が死んだらしい。
そんな話を聞いたのは、僕が久しぶりにボンゴレ本部に立ち寄ったその日だった。
もともとマフィアを嫌う僕は、クローム達をボンゴレにおいてはいるものの、自分自身はボンゴレに寄り付かず、独自に動いていた。
そんな中ででも、彼の噂は届いてくる。
ボンゴレ最強の雲の守護者。
…だなんて呼ばれているとはいえ、彼も僕と同じく、ボンゴレに名を連ねてはいても、ボンゴレに属して動くことは決してない。
風紀財団の長として、ボンゴレと取引をすることしかしないのだ。
そうまでファミリーに非協力的なのに、彼が雲の守護者の任を解かれない理由。
それこそが、彼の強さを端的に示していた。

だから、というわけではなく、僕は僕個人としてあの男と関係があり、武器を交えて痛感した、という理由で、僕は彼を「最強」と認めていた。
中学時代は、まだ僕のほうが強かった。
違う、彼の才能が開花していなかっただけだ。
高校を卒業して、本格的に裏の世界に足を踏み入れて。
そうして初めて人殺しをして、そこで彼は完成した。

人殺しを経験した後の彼には、全く歯が立たないとまではいかなくても、勝つのは不可能なのだと本能的に思い知らされた。
殺戮は僕の本分だったが、彼の本分は戦闘だった。
「殺す」のは僕のほうが強いが、「勝つ」のは彼の方が優れていた。
一線を越えて、雲雀恭弥は、彼自身が無意識に押し殺していた狂暴性を完全に解放してしまった。
「勝つ」ための手段として、「殺戮」を。
僕の本分は、彼にとってただの「手段」でしかなく、それはすなわち二次的価値でしかない。
それに特化した僕では、どうやったって勝ち目はないのです。
それは、アルコバレーノにもいえることでした。
彼とて、僕と同じように「殺人」を本分にしている。
彼が認め、自分より上に位置づけていた存在は、彼が人殺しを知ってもなお、それに二次的価値しか見出さなかったことで、必然的に下の領域にシフトされる。
それは、ただ精神世界の概念でしかなかったけど、精神は現実に直結する。
そして、雲雀恭弥は名実共に「最強」となった。
彼が何より望んでいた称号です。
けれど、彼は。その称号を手に入れた途端、自ら命を絶ちました。
強者との戦いを望んで、世界中のマフィアを潰して回って。
最後に残ったボンゴレに、全面戦争を仕掛けて。
仲間を守るために戦ったボンゴレも、その守護者も、邪魔の一言で薙ぎ払って。
念願であった、アルコバレーノと戦って。
そうしてアルコバレーノに完勝した彼は、満足気に、そして疲れたような寂しそうな笑みを浮かべて。


「これで僕は、最強だ…裏社会最強の殺し屋、リボーン。その称号は僕がもらうよ」
「欲しいものはようやく手に入れた…僕より強い人間のいない世界に、もう未練はない」


そう言って、手にした銃で、脳天を撃ち抜いた。
彼は、最期まで笑っていたらしい。
そんな話をボンゴレから聞いて、僕は笑いが止まりませんでした。
ああ、なんて…彼らしい!



僕はようやく気付きました。
自由奔放に気高く生きる、あの漆黒の獣に、どうやら僕は憧れていたらしいのです。
長生きはせず、かといって早死とまではいかず、一番の最絶頂期に潔く散っていく。
その死をもってして、かくして彼は永遠となる。
己が生と引き換えに、永久に最強の座に君臨するのだ。

安らかに眠りなさい、雲雀恭弥。
その美しい生き様は、貴方が望み、欲しいままにした「最強」の称号と共に語り継がれるだろう。







「かつて、最強の名を冠した男がいた…」


『ボンゴレ]-雲の章-』
(時の霧の守護者、六道骸手記による)

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