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わかっていたんだ
この恋が、
想いそのものが罪だって


「恭…」
いつものように、不意に応接室に現れた恭に駆け寄って思い切り抱きつく。
品のいいスーツからは仄かな香水の香りが鼻を擽って、その安心感に自然と力を抜いた。
「…久しぶり。しばらく来れなくてごめんね」
そう言ってあやすように僕の頭をその大きな手で優しく撫でた。
自分の手だというのに、それは僕のものよりもいくらか大きく、すらりと伸びた感じも白さも変わらないのに、少し男らしくなった指にどきりとした。

僕はナルシストではない。
それは断言できるはずなのに、僕の心はもうどうしようもないほど恭に囚われていて、こうして抱きしめられると狂おしい程の愛しさが沸き上がる。

愛しているのだ。
その濡れた漆黒の髪も、射ぬくような鋭いダークグレーの瞳も、病的に白い肌も、細く、でもしっかりと鍛えられた逞しい体つきも、僕の名を呼ぶ低く艶美なテノールも、恭の全てを。


「恭、は…狡いよ」
「どうして…?」
「大人だ…僕は、どう頑張っても追い付けない」
「そりゃあね、だって…君は僕だもの」


あぁ、狡い。
全てを受け入れられる、その大人の余裕が憎らしい。

本当は、知らずにいたかった。
何も知らずにいたかった。
僕らが結ばれる日などこないと知らないほど、僕は子供でいたかった。
絶対に結ばれてやると言える程、僕は大人でいたかった。

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