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「今すぐ僕と別れろこの節操なし」


いつものように地下アジトに訪れた骸に、雲雀は滅多に浮かべることのない満面の笑みを浮かべて言い放った。ただし、その美しい黒曜石の瞳だけは氷点下に冷え切っている。


「き、恭弥…」
「君さ、僕に黙って女抱いただろ。僕が知らないとでも思った?随分と舐めくさってくれたものだね。しかも、その足でここにくるなんて…どれだけ僕を侮辱すれば気が済むんだ」
「ち、がいます…違います!」
「言い訳かい?…見苦しいね」
「恭弥…っ!」


悲痛な声で骸がそう告げても、雲雀の表情は変わらない。それどころか、瞳は剣呑さを増していくばかりだった。
貼り付けた笑みが、淡々としたいつも通りの声が、逆に恐ろしかった。


「僕は君を愛してる」
「っ…」
「でも、君は違ったんだね」
「そんなこと…僕だって君を愛してます!」
「っふざけるな!!」


怒り任せに壁を叩きつける。素手で殴ったはずなのに、強化された壁はいともたやすく陥没していた。
初めて聞いた、雲雀が怒鳴るところなど。
呆然と彼を見やる骸に射殺さんばかりの殺気に満たされた瞳を向けて、幾分か冷静に言葉を続ける。


「愛してる、だって?ふざけるなよ…だったらどうして、僕以外を抱いた」
「そ、れは…任務、で…」
「任務だったら、誰でも抱くんだ?――教えてあげるよ。君のその任務、先に僕に回ってきてた」
「え…?」
「でも、僕は断ったよ。僕には君がいるから…たとえ仕事でも、そんなことはしたくない、ってね。沢田は、「そういうと思ってました。じゃあきっと、骸も同じ答えですよね…でも言うだけ言わないとリボーンに殺されるんで、言うだけは許して下さい!」って言ってたんだよ…」
「っ…!?」


雲雀は、いつだって真っ直ぐな人間だ。
自分がこうと決めたことは譲らないし、その生き様を変えることなどありえない。
それは、恋愛方面にも同じことで、彼の愛は真っ直ぐで淀みなかった。
操を立てる、なんて陳腐なものじゃない。
大切だと決めたモノは殊更大切にする。それがモノでも、人でも。
徹底した選別意識。
だけど怒りは、情が深ければ深いほど昂ぶっていく。


「君なんか大嫌いだ」
「……」
「もう、いい。君なんかいらない」
「きょう、や…」
「じゃあね」


泣くこともせず、惜しむこともせず。
そうして彼は、唯一を手放した。
深く深く愛しているから、愛のない浮気さえも許さない。
全て手に入らないのなら、初めからいらない。


「君は、僕を愛して、僕の愛も受け入れてくれると思ってた…」


さよなら、ばいばい。
そうして雲は独りに戻る。











どんな理由があれ、彼を裏切ったことは事実。ならば僕は、君との別れを受け入れましょう。永久に薄れぬ君への想いを、生涯抱えて生きることこそが、きっと、彼を傷つけた僕への罰。嗚呼、恭弥、独りというのは、こんなにも寒いのですね。
――愛してました、さようなら。

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