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「どうして…、」


今の殺気は、雲雀のものなのか。
だとしたら、先ほど飛来した凶器も彼のものであるはずである。
そう、雲雀の牙であるトンファーだ。
その凶器は、間違いなく己の髪を奪い去った。
どうして…。そんな疑問が駆け巡る。
確かに、雲雀は強かった。中学生にしてはありえない殺気を放ってきたり、おそらく自分の知る中で最も飛びぬけて驚異的な戦闘センスの持ち主であるとも思っている。
だが。
勝てるだろうとは、思っていた。
いくら凄まじい才能があっても、まだ成長過程。十年後はどうかわからないが、今なら軽くあしらえるだろうと。
そんな認識はたやすく打ち砕かれる。
自分が脅威を感じるほどの、濃厚な殺気。トンファーを投げられただけで髪を傷つけられた事実。
綱吉は強い。リボーンを完全に凌駕する強さだ。
強者は強者を知る。綱吉は、今始めて、彼の本当の強さを正確に理解した。


自分と同じ、存在だと。


恐ろしいまでの強さを持ち、なおかつそれを周囲には隠している。
今思うと、戦闘に慣れきった綱吉の身体は、彼に確かに反応していた。
最初の応接室での出会いの時は、ダメツナの仮面を被っていたものの、彼を確かに強いと感じたし、これまでの戦いででも、雲雀がいれば安心感を抱いていた。
自分より弱いものに、そんなこと思うだろうか。
肝心な時に、何してんだよ超直感。と思わなくもないが、それだけ彼の隠し方が徹底していたのではないか、と自分を慰めておく。
自分は今、彼を同族だと認識した。ならば、他者を遙かに超越した頭脳を持っていてもおかしくはない。


「ねぇ、小動物」
「……」
「君、ダメツナじゃないでしょ」
「……」
「…隠しても無駄だよ。君が入学した時から疑ってたから」
「…は?え、嘘!?」


衝撃の事実に唖然となる。
そんな早くからばれていたなんて…予想外すぎる。
何なんだよ。ほんとに何者だ、この人。
野生の狼か。


「大体、勘でわかるんだよ。強い相手っていうのはね…でも、君には違和感があった。確かに強いと感じるのに、普段は鈍臭過ぎだし」
「あ、はは…」
「でもね、よく見てるとわかった。…君、強すぎるんだね。日常的なことは習慣で何とかなっても、咄嗟のことには持ち前の反射神経が動くんだ。予想外の方向から飛んできた物なんかに当たることは、まずなかった」
「…そこまで見てたんですか、雲雀さん」
「君は面白い生き物だったからね。…ああ、安心しなよ、ストーカー紛いなことはしてないから」
「…雲雀さんも、相当強いですよね。見られていたなんて、全然気付きませんでした。でも…そんな早くから気付いていたなら、どうして今まで声をかけなかったんですか?貴方なら、俺が強いとわかったら、戦えと要求するかと思いました」
「……隠すには、それなりの理由があるんだろう?」
「……え?」
「わざわざ『ダメツナ』を演じるんだ、何か理由があるはずだ。だったら、余計なことはしないし、無理矢理聞くつもりもない」
「……」


この人は、大人だ。
見ていただけで、そこまで見抜かれた。何か理由があると知りながら、それを無理矢理聞くようなことはしてこない。
……何故だろう。
この人と話すのは、酷く心地いい。


「で、も…それなら、なんで今…」
「ああ、簡単な理由だよ」
「簡単な…?」
「君と話してみたかった」
「……え?」
「話してみたかったんだ、僕と同じ君と。…僕等は同族だろう?なら、わかるはずだ。日常的に溜め込む苦痛も、存分に力を振るえぬもどかしさも――それを溜め込めば、最終的にどうなるかも」
「っ……」


知っている。
溜めて溜めて溜め込んで。そうして最後に残るのは、破滅だけ。
抗えぬ狂気に支配され、自分という存在が消え去っていく。
綱吉もそれが怖くて、ハイパーモードなどと称して敵に突っ込んでゆく。
仲間を守るためではなく…自分を守るために。


「僕はそろそろ溜まってきててね。…近いうちに、海外に飛んで発散しようと思ってた。でも、その前に君と話したかったんだ」
「なぜ…?」
「…わからない。でも、何故か…君と話せば、この圧迫感が拡散するような気がした。予感は的中だね」
「あ…、」


そうだ。不思議なことに、自分も感じていたはずの圧力は綺麗に消え去っている。
久しぶりに、気分爽快だ。
これが、雲雀と話したからだというならば…


「俺もだ…消えてる」
「…似たもの同士って、何かあるのかな」
「でも、もしそうなら…!」
「……。うん、使わない手はないね。利害の一致だ。沢田綱吉…これからは、時々応接室においで」
「いいのか…?…あ、いいんですか?」
「構わないよ、素の口調で。うん、その代わり書類を手伝ってもらうけど…バイト代に、和菓子とお茶を出してあげるよ。どう?」
「行く…!和菓子、好きなんだ!えと…とりあえず、これからよろしくな、雲雀」
「よろしく、沢田」






これは、二人の出会いの話。
気高く孤高な、獅子と狼の出会いの話。


同じ秘密を共有した彼らは、やがて互いに惹かれ合う――…

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