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「だから、俺はマフィアになんかならないからな―――!!!」


大なく小なく並がいい。
そんな校歌にも歌われているように、ここ並盛は至って平凡な町であった。
一介の中学生が暴力で町を支配していたり、イタリア最大のマフィアボンゴレファミリーの時期ボスが住んでいたり、彼を巡って日夜壮大な騒動が勃発していたとしても…。
最近並盛で起こる騒動の中心人物である少年、ダメツナこと沢田綱吉も、至って平凡な少年である。
……と、いうのは、些か語弊があるかもしれなかった。
それは、彼こそがそのボンゴレファミリーの時期ボスとなるべき十代目候補であるということよりももっと大きな理由が存在する。


「……ようやく、撒いたか。ったく、リボーンの奴、しつこいんだよなー」


路地裏に入った途端、彼の纏う雰囲気はがらりと変わる。
常にビクビク、オドオドしていた気弱な気配は完全になりを潜め、そこにあるのは王者然とした凛とした空気。
そう、沢田綱吉はダメツナなどではない。
身体能力はもちろんのこと、頭脳面も飛びぬけて秀でており、それを隠さなかった幼少期には誰もが「神童」と彼を称した。
聡かった彼は幼くして気付く。己に課せられた運命というべき命運を。
嫌だった。マフィアになどなりたくなかった。優しい母と、すっと一緒にいたかった。
綱吉には友達はいなかった。気味が悪いといって、誰も遊んでくれなかった。…それが、寂しかった。
だから彼は、わざわざダメツナを演じたのだ。
もう気味悪がられないように。平穏に暮らしていけるように。
その作戦が功を奏したのかは微妙なところであるのだが、そんな理由で、現在彼はダメツナに偽装中なのである。
本来の綱吉は、こっちなのだ。
堂々としていて美しく、マフィアのボスにふさわしい威厳も兼ね揃えている。
それでいて、どこか掴めない、飄々とした雰囲気でもある。
その様は、全てを包み込む大いなる大空というより…彼の守護者である自由なる雲。常に我が道を行く孤高の浮雲、雲雀恭弥にほんの少し重なる。
常に独りで、孤高で、気高く、誰にも膝を折らない、絶対的強者。誰もが認める、並盛の秩序。雲雀は常に孤高で、孤独で。同時に誰よりも自由だった。


「…いいよなー、あの人は」


常に孤高で自由な様は、酷く美しくて羨ましい。
そんな風に、ぼんやりと頭に浮かんだ漆黒の王を称していると、背後から純然たる殺気を感じた。
自称裏社会最強の殺し屋であるリボーンに向けられるものより、ずっと冥くて、濃くて苦しい――!!


「誰だ…っ!?」


同時に何かが飛来する。
とっさに身を後ろに引くと、濃厚な殺気を纏ったソレは、綱吉の髪を数本攫って、視界から姿を消した。
何事だ、と一瞬頭が混乱する。
殺し屋か。いや違う。こんな濃い殺気は、初めてのことだった。
全身が警戒する。
今、己に凶器を放った存在は、間違いなく脅威だ、と。
己に並ぶほどの存在だ。
コツ、コツ――と、夕暮れのオレンジ色を切り裂いて、重たい革靴の足音が響いた。
来る――。
目の前にいるであろう未知の強敵に、知らず冷や汗が滴り落ちた。
頬を伝い、流れた汗が地面に跳ねて跳躍した時…真冬の冷気にも似た冷たい声が、明らかな愉悦を滲ませて、綱吉に放たれる。



「ワォ…やっぱり君、小動物の皮を被った、肉食動物だったんだね――沢田綱吉?」
「ひ、ばり…恭弥…?」



そこにいたのは、並盛の王。
恐怖の風紀委員長であり最強の不良――雲雀恭弥だった。

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