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「…、沢田…」


珍しく困惑したような表情で、彼は呟く。
不謹慎だが、初めての表情が見れて嬉しかった。


「大丈夫です、覚悟は出来てます。
殴っていいですよ。気持ち悪いって、素直に咬み殺してください」


わざとおどけたように、そう言った。
大丈夫。怖くない。
胸の痛みも、きっと気のせいだ。
雲雀さんがゆっくり近づいてくる。やってくる痛みを覚悟して、俺はそっと目を閉じた。


「……?」
「沢田…、目を開けなよ」


いつまでたっても、覚悟した痛みは訪れない。
不思議に思っていると、近くから雲雀さんの声がした。
恐る恐る、瞼を持ち上げてみる。


「…沢田。君も知ってるように、僕には妻がいる。政略婚じゃない、僕自身で選んだ女が。だから、君の想いには応えられないよ…」


一瞬、何を言われたのかわからなかった。
失礼だが、雲雀さんからこんな常識的な答えが返ってくるとは思わなかったのだ。
それに…


「雲雀、さん…」
「なに?」
「気持ち悪く、ないんですか?」
「どうして?」
「だ、だって…俺、男で、雲雀さんも男ですよ!?なのに…っ」
「人を好きになるのに、性別なんか関係ある?」


絶句した。
わけがわからない、というような顔でそう言う彼は、決して気休めを言っている風ではなくて…心から、そう言っているのだろう。
そうだ。この人は、いつだって自分を偽らない、ある意味とても誠実な人だ。
受け止めて…くれたのだ。
自分の想いを、気持ちを、恋心を。気持ち悪いなんて思わず、己に向けられた感情の一つとして。
ただ、受け入れてもらえないだけ。
それだけのことだった。

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